第29話 出張前夜の帰り道

「今週も疲れたね。」






『会社を出て、深澤くんと肩を並べて歩くこと。』





それは特別な日、ではなく日常となっていた。






気が付けば平日はいつも何から何まで一緒で、隣にいるのは当たり前になっている。



でも。



何となく、心の距離が近づくことがないように心がけた。







「あの.....」


「ん?」


「少し、公園寄りませんか?」


「ん・・・いいよ。でもさ、明日から2泊3日、ずっと一緒だよね。」


「ふふふふっ!そうなんです、けど、嬉しすぎてちょっと緊張していて・・・(照)」





(か、可愛いっーーー♡)



と、ともに、心の真ん中がトクンとした。






————明日から、2泊3日で北海道へ出張に行く。



なぜ、派遣の私たちが、と思ったが、

北海道で新規の拠点を立ち上げたが、仕切れる人がいない、ということで

私たちに白羽の矢が立った。というわけだ。






母に、娘のリョウの世話をお願いしにいった時、

この一連の事を話したら、見えないものの力が働いている感じがあると言っていた。



”その男性は過去世で私と身分違いの恋愛をし、引き裂かれ、後世で会う約束をした” 




のではないかと。





ま、ものすごくしっくりきた。そんな予感もあった。

でも、それが深澤くんなのか?については微妙だ。







「・・・・・・さん?レンゲさん!」



公園についていたらしい。





「考え事ですか?」

「ん、ちょっとね。」




「ここでいいですか?座って待っててください、適当に買ってきますから。

お酒少し飲みますよね??」




深澤くんはとめどもなく、かいがいしく世話を焼いてくれる。



「ありがとう」


少し離れたところに今日は趣のある屋台があり、

そこへと深澤くんは足早に向かっていった。






・・・・・しかし、呼ばれているのは私だけなのだろうか?

深澤くんには異能がないけど、感じ取ることはできそうなので

感じてもいいはずなんだけど・・・



そうこう考えているうちに、深澤くんが戻って来た。




手には、おでん と お酒だ。



「渋いねー」



ニッコリと笑い、腰かけた。



「美味しそうですよーおでん。僕、おでんとか煮物大好きなんですよ!」


「知ってるよー!煮物の時、ご飯に煮汁かけていっぱい......」



「?!」

「!?」



二人で思わず顔を見合わせた。




「?! え?なんで、その事知ってるんですか?外ではやらないようにしてるし

レンゲさんの前でやったことないと思うんですけど・・・。」



「....だよね、見たことないし、、知ってるって...何だろ。

でも、煮物を食べている深澤くんに覚えがあって.........んーーー。」





「・・・・まずは、食べて飲みましょう!」




「そうだね、乾杯。」

「乾杯☆」




この間の、満員電車の一件については恥ずかしすぎて二人とも声にしていない。

ただ、確実に二人の間の空気が濃く、近くなった事は確かだった。





「......おいしい」

「・・・おいしいですね!」




冷たい風が二人を包みこみ、視線を絡めていく。





「あの、レンゲさん。」

「ん、なに?」

「・・・昼間の話しなんですけど。」

「あぁ、、、、、割としぶといね(笑)覚えてたんだ。」

「すいません(笑)」

「いいよ、何でも答えるよ(笑)」






「あ、はい!ありがとうございます!

・・・・・あの、指輪してないですよね?」


「あー・・・、、、してないね。.....何で?」


「逆に、何でかな?と思って。だって、勘違いして男子が寄ってきますよ。」


「えーーーー!!寄ってこないよ~ないわ~こんな熟女に。」


「無防備だな。信じられないくらい。」


「だって、きっとそんなにモテないから♡」


「........妬けます。」


「は?なんでよ?」



ちょっぴり突き刺さるような目でこちらを見ている。


「.....妬けます。」


「何に妬けます??意味がわかんない。」


「レンゲさん。余裕すぎるところが悔しいです。懐というか、、、器の大きさに完敗です。」


「あははははっ!どうもありがとう☆でも、年の功だよ、それ。」


「レンゲさん、歳とか気にしているんですか.....?」


「・・・・うん.....。全っ然、気にしていない。自分の生きて来た証だと思っているから。あはははっ!」


「あー・・・・かなわねえな。」


「ふふふっ☆・・・・でも、」


「でも?」


「.........うん、深澤くんと出逢って、その気持ちが初めてブレたかな。

あのね、、、、、深澤くんと同世代で産まれたかったって思っちゃっ....」








その瞬間、あの香りが鼻をくすぐり深澤くんの優しい胸の中にいた。




「ちょっっ.......深澤くん?」




ぎゅうっと、抱きしめている。





「....................可愛い。愛おしいです、レンゲさん。」








「深澤くん...。ん、じゃぁ、お酒の力を借りちゃって私も、もう少しこのままでいようかな♡」





抱きしめている力がまた少し強くなった。





「あなたは今のままで。僕には十分です。」





今度は私が、そっと深澤くんの背中に手を回し、ギュッとした。

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