第11話 母との時間

割と頻繁にあの壮大な夢なのか何なのかわからない空間にいるようになったので、

気が進まなかったが、母に話してみようと思い始めていた。




















娘も、どうやらあの空間は経験済な様なので、自分の幼少期の様子も含め

知らないといけない事もある気がしたからだった。










——————週末、娘を連れて実家へと出向いた。








「ばばちゃま!」







玄関で、娘が呼びかけた。








嬉しそうな顔で、母が出てきた。









「亮緋~」





何とも締まらない声で呼んだ。





「レンも元気そうね」




つれない感じでひとまず声をかけられた。





「さ、上がって。」






懐かしい、母の煮物の香りが鼻をくすぐり、いざなわれるように実家の敷居をまたいだ。



















——————ひとしきり、母の料理を堪能し歓談をした後、

娘のリョウは友達とのSNSタイムの為、リビングを離れ、寝室へと向かった。




「こんなものよね(笑)」

と、母はケラケラと笑った。





「こんなもんよ。」

と、返した。





「アンタはもっと思春期だったし、もっと酷かったもんね。」


「.....その節は、失礼しました。」


顔を見合わせて、笑った。


私が、リョウの年齢だった頃は、もっと大人で、もっと何かにあらがっていた。


「なんだろうね、なんであんなに抗っていたのか・・・解明できない人間の謎だよね。

しかし、母ちゃまの料理は相変わらずにおいしい。」


「(笑)(笑)あの思春期の日々は「地味な料理ばっか出すなよ!!」とかキレていたのに(笑)」


「......あの、あまり過去は振り返らないようにお願いします。」


「そうね(笑)みんな避けて通れない道だもんね。」


顔を見合わせて笑った。







「ところで、今日のご用向きは?」


母が核心をついてきた。


「・・・感づいているんでしょ?」


「...ま、ね。予知夢があったから。でも、ほら、必ず当たる訳でもないし。

まさか、ばあちゃん孝行しに来たわけでもないでしょうに。」


「全部込み込み、よ。顔見たかったのはホントだし。」


「ふふっ、ありがと。で、何か・・・・あったのね。」


私は、ここんとこ増えてきた、【あの空間】についてと、ばあちゃんからの言葉達について、話した。












しばらく考え込んで、口を開いた。


「アンタのばあちゃんはね、一族のなかでどうやら一番能力が強いらしく予知ができたの。

持っている「異能」の数も、他の誰よりも圧倒的に多くてね、何百年かに一人出るか出ないか、なんですって。

私は、ばあちゃま(母の母)に聞いたんだけどね。」





....うちの血族は一体どんなことになってるんだ。掘れば掘るほど、人間離れしていく。






「しかも、しょっちゅう修行をしていたから・・・・強いし、コントロールも出来るのね。

一番しんどいとされている修行もクリア出来ているって話。」


「しょっちゅう.....てことはいない日が多かったのよね?母ちゃまはその時、どうしていたの?」


「そう、しょっちゅういなかったわよ。(笑)

父様が異能をものすごく理解して母様と結婚したから、母様がいなかった時は

家事と育児、仕事をしながら私たちの世話をしてくれていたの。

父様はいつも言っていた、「母様はね、私たちの住んでいるこの碧い惑星ほしの為にお仕事をする人なんだよって。」

子どもの頃の私には理解できなかったから、私は、ものすごく反抗したんだけどね(笑)」


「知ってる。ばあちゃんがものすごく荒れた時期があって大変だったって言ってたから(笑)」


「余計な事を(笑)まあ、間違ってはいないのだけど。小さい時は寂しくてねぇ・・

意味も分からず頻繁に、突然いなくなるから子供心にうちの母親(-.-)って思ってたのよね。」


「だから、母ちゃまは修行を拒んで、精進していくことはしなかった。わけね。」


「その通りです。」


「でも、穏やかではいられなくなってしまった、私とリョウの存在によって。」


「そういうこと。そもそも、レンは小さい頃から、カンが強い子だったので、母親として複雑だった。

もしかして、と思っていた。そしたら、母様が「蓮伽は能力が強い」と言い出してしまって。

しかも、リョウが生まれてリョウの強さを私も認識できてしまったから・・・」


「なんで、能力が強めな人間が立て続けに産まれて来てしまったの?」


「そう、そこなの。」





———異能を持つ一族あるあるなのだが、隔世遺伝や何世かに一度、能力が強い者が産まれるということがスタンダードらしい。

色々な説があるのであまりわからないのだが、能力が強すぎても種族として宜しくない理由があるとのこと。

結局、我が家の家系も「種のバランス」を取りながら、異能を受けいれて生存してきたということになる。





「母様は、それだけ地球の正しい姿での存続が難しくなってきている。と言っていた。

人間のあるべき姿も乱れ、数が溢れてしまって、命のバランスが崩れている、と。

だから、レンの力を覚醒させたい。って、頻繁に私のところへ頼み込みにきてたのよ。」


「母ちゃまはなんで?なんでそんなに頑なに拒むの??人の助けになるのならいいじゃない?」





「・・・・普通の子でいて欲しかったから。ただ、それだけ。」

一瞬だが、寂しそうな顔をした気がした。


「修行をし鍛練を積むということをする必要なく、大きなお役目を背負うことなく、普通の女の子として生きて欲しかった。

でも、そんなのんきな状況ではない、大きな事が迫っている。私もそれは感じてしまった。

だから、ずっとどうするべきか考えていた。」



「そしたら、私たちが遊びに来たわけだ。」


「そう、母様がきっと、そう仕向けたのね。ホント、困っちゃう。」




そう言って、力なく笑った。



「で、母様なんだって?私のとこへは来ないのよね、きっと怒るから(笑)」




私は、あの時間の事をくまなく、寸分も漏らす事無く伝えた。

リョウも経験済、ということも。




神妙な面持ちで聞いていた母だったが、目を閉じて聞いている。




「そんなに、色々考えないとダメな事なの?地球の為なら、やるしかないじゃない?

私程度の力で、何かを救えることができるならそれに越したことはないんじゃないの?」

少し苛立ちを見せた私に、静かに言った。





「リョウが大変な思いをしなければならないとなったら、簡単にそんな事、言えるの?」








私は、黙るしかなかった。

母の思いを痛いほど実感できるから。

そして、父と母に守られ育てられて今を生きている。







「父ちゃまは?異能の事、知ってたんでしょ?直接話したことはなかったけど....」






父はすでに他界してしまっている。





父も、異能を持つ家系だと、知っていて母と結婚した。

ちなみに、旦那も異能持ちなのは知っているが全く興味がないということで、母は結婚の際、逆に喜んだ。






「彼は、私の思いを知って、私の好きにさせてくれた。

能力を持つということが必ずしも幸せでないことを理解してくれたから。でも。」


「でも?」


「選ばれた人しか出来ないんだよ、とよく口にしていたの。僕には、出来ないことだから、と。」


「・・・・そっか。父ちゃまにも思ってたことがあったんだね。

もっと、話したかったな。」


「ごめんね、私が能力を意識せずにあなたを育てたかったから、そこにたどりつく事がないようにしてた。」






——————確かにそうだったかもしれない、小さい頃は異能の存在をあまり感じたことはなかった。

少なくとも、両親からは。祖母からおとぎ話のように聞かされていただけで。

母は、祖母が私に異能の話をしていたことは、だいぶ後に知ったらしい。



母はそっと目を開け、言った。




「あの空間に母様が、二人を導いたということは思ったより、淘汰が始まり修正が始まっているのかもね、高次元の存在により。」


「高次元の存在?あの空間って言うことは母ちゃまも行った?ことがある訳??」


わからないことだらけだ。


「(笑)あるけど、私は拒絶が大きかったので、シンクロの精度が悪くて(笑)

見えないものから受け取る事が出来なかったのよ。後悔はしてない。」


「母ちゃまは自分で繋がりを切った。」


「切りたかったんだろうけど、切れなかった。所持しているものだし、ね。

ただ、強くしないように努めていた、って感じかな。」


「そうだったのね、母ちゃまはどうしても嫌だったのね(笑)」


「そうなの。(笑)

でも皮肉なことに、私の循環しなかったパワーが子宮に溜まり

能力の極めて高い子が産まれた。」


「(爆笑)それが、ワタシって訳ね。」


「そう、そしてアナタの能力に蓋をしようとしたせいで、」


「リョウの能力も高そうな気配(笑)」


「そういうこと。」








その後、深夜にまで及び、やらなければならないことについてなど話した。

祖母がやっていたほどまではやらずとも、で済みそうだったが、

やはり、集中して鍛練を積んだ方が、自分だけでなく娘を守れるまでの強さを得られるという事だったので

母に、娘の身の周りをお願いし、準備に入った。











離婚どころではなくなってしまった。

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