第26話
「それは…どうかしら」
何だか私だけの秘密にしておきたくて、わざと意地悪く言う。
「えぇ!教えてくださらないのですか?!」
「春になれば自ずと分かるわ。志乃も私と共に…来てくれるのでしょう?」
婚儀が済んだら、私は久保様の居城である日向の飯野城へ向かう。
その時には、志乃だけには一緒に来てほしい。
そう言うと、志乃はふと私を柔らかく見つめた。
「姫が殿方のことをそのように笑いながらお話になるなど…思ってもみませんでした。上洛する前は、婚儀の話になると…暗い顔をされているのしか見たことがありませんでしたから…」
そう言われて、驚く。
自分がそんなに変わったのかと。
確かに、『お前はいつかは島津のために婿を取らねばならぬ』と父上に婚儀の話をされる度に、恐ろしくなっていた。
己の生まれた落ちた境遇が。
島津家16代目当主・島津義久の娘であることが。
だから好きでもない御方に、嫁がねばならないと諦めていたから。
家の為、だけに。
「もちろんにございます。姫様にそう言っていただけるのなら、志乃はどこまでもお供させていただきます」
志乃は笑って手をついて、頭を下げる。
そして『少しお待ち下さいませ』と言うとどこかへ行ってしまった。
一人になって、静寂の中考える。
ふとした時に、久保様のことを考えている自分がいる。
それは、自分の旦那様になるから、かしら。
あの柔らかさの中にある美しいほどの強さも。
強さの中に垣間見えた…一筋の涙も。
心の奥深くに残像が残る。
残って…刻み込まれている。
この感情を、何と呼ぶのだろう。
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