第4話
ただ愛しいその名を、言の葉にする。
ただ一目…もう一度だけでいいから会いたい、と。
叶わぬことを、切に願う。
それに、涙が落ちて地面に座り込んだ。
その反動でカチャリ…と音を立てたのは、肌見放さず持っている久保様の懐剣。
それは…彼が最期のその
その懐剣に結わえつけられている、古びた私の髪紐が目に留まる。
いつの日か、小田原へ出征する彼の無事を願って私が結わえ付けた。
…離れても傍にいたいと、ただ願って。
それからずっと…つけていてくださった。
外しても、よかったのに。
時の流れを感じさせる色褪せたそれに触れて、そっと目を伏せた。
『…どれだけ遠く離れようとも…私はそなたのそばにいるから。
だからどうか…あの約束を忘れないでほしい』
今生最後の別れとなってしまった、あの大雪の出陣式での彼のその言葉が、耳元で鳴る。
—————————忘れた日など一度もない。
今も…ずっと。
生涯…私の夫は
——————————貴方様だけ。
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