第31話

「いや…っ名倉さん……!」




痛そうに手を擦る名倉君に女の子は心配そうに駆け寄る。




手をそっと握った女の子に名倉君は凄く嬉しそうに顔をニヤケさせた。




「名倉にもついに春が来たんだね。」




「良かったね。名倉君。彼女が出来て。」




美優ちゃんと兄ちゃんがここぞと言わんばかりに名倉君をからかう。




日頃の鬱憤を晴らしてるなー兄ちゃんたち。




「名倉君にもついに彼女かー。あーあ。なんだよ。俺だけ真冬じゃん。」




「ちょ……っ待てー!俺はまだ付き合うとは……。」




「付き合わないの?」




慌てふためく名倉君にビシッと突っ込んだ。




この間、カラオケに行った時に




"全国の可愛い子ちゃんたち!俺の胸の中にカモーン!全員俺の彼女にしたるー!"




とかマイク片手に叫んでたのに。




俺に視線を移した名倉君はどうしてだか、悲しそうに顔を歪めた。




「いや、だってな、名前も知らんのに……」




「加奈子です。お見知りおきを。」




「ほら、知ったじゃん。」

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