第6話

そのエピソードの前だったか後だったかは覚えないが、こういうこともあった。


俺と彼女たちのグループ(4人)で一緒にいるとき、何かの折に、その子供たちが喉が乾いたと言うから、ならジュースをおごると伝えると、四人が四人とも、信じられないほどのテンションで喜んだ。ジュース一本でこの喜びよう。これが20代であれば『あざーす』で終わるはずなのに、10代始めとは、なんでも嬉しく、なんでも悲しい年頃なのだろうと思いながら眺めていた。


これから一年後くらいに、彼女には『みんQちゃんって表情ないよね』と言われたことがある。俺は彼女たちを感情の権化と思っていたところ、彼女たちは俺を無感情の長物と思っていたようだ。


そんな俺にも、チョイとは感情を現していた時期はあった。小学生の頃、九九を覚えるのが遅かった俺は、居残りで先生と勉強していた。ソンナ折りに、先生が『疲れたろう』といって、飴玉をくれた。


あの時の感動は忘れられない。絶対に甘いものなど取れない環境のなかで、まさか普段は飲食禁止を発しているはずの教師が、飴玉をくれたこと。その認識の裏切りが、あれほどの感動を呼ぶとは。


俺は一杯のジュースで喜ぶ彼女らを見ていて、自分自身の忘れていた過去を思い出したのだ。

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15年にわたる恋心に終止符を打った。その15年の経緯を、俺の思い出づくりのために書いていく みんQ @minQchan

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