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「誰かー!いませんかーっ!?」



部室内にある壁掛時計で確認した時刻は、午後十時。


ここに閉じ込められてから、すでに一時間以上過ぎていた。



電灯のないこの部屋では、唯一窓から差し込む月明かりだけが頼り。


その頼みの綱の窓ですら、はめ殺しになっているタイプのもので、人に手で開けることはできない。



「もう諦めたら?さすがにこの時間まで残ってるバカはいないって」



部室には、大きいテーブルと椅子が六個。


それと、部員各自のロッカーに、カゴに入ったサッカーボール。


ユニフォーム。タオルに、ヤカン。


他に余計なものは何もない。


扉を開ける、鍵すらも。



外から施錠された扉に向かって叫ぶ私に、先輩はのんびりと椅子に座ってあくびをしながら言う。



「せ、先輩ももっと焦ってください……!開かないんですよ、扉!」


「外からしか閉めらんない鍵だからねぇ」


「何でひとりでに閉まったりするんですか……!」


「いや、さすがにやったのは人間でしょ。夜間警備員いるんだよ、この学校。知らなかった?」


「し、知ってますー!だからそれが何でっていう話を……!」


「いつもは鍵閉めてる時間だったんじゃん?」

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