5


「こんばんは。」



 その男は――




 ――ストーカーじゃなかった。

 隣人の田村たむらさんだった。


「こんばんは。どうぞ上がって下さい。何のご用ですか?」


 田村さんをリビングに招く。

 外は真っ暗。そういえば、まだ夕飯は食べていなかった。でも田村さんと食べるわけにもいかないので我慢。


 私はお茶を出した。多分、田村さんも長居はしないだろう。



「――ここ最近、近所で不審者の目撃情報が相次いでいるらしいです。ですから、唐澤さんも気をつけたほうがいいかと思います。唐澤さん、一人暮らしでしょう?」


「そ、そうですね……、気をつけます」


 ここで私がストーカーに遭っていることをカミングアウトしたら、田村さんはどんな反応リアクションを示すのだろう。


 少しだけ逡巡しゅんじゅんした後、私は告げた。


「――私がもし、ストーカーに遭っているとしたら、田村さんはどうしますか?」


「警察に通報して、僕が守ります。」


「それが仮にイケメンだとしても?」


「どんなに顔が良くても、ストーカーはストーカーです。迷わず警察に通報します。例え、唐澤さんの知り合いだとしても。」


「私、ストーカーに好かれているんです。」


「え――。」


「なんて、冗談ですよ。」



 私はそう悪戯に微笑んだ。



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