ORNAMENT(オーナメント)

黒隼

第1話 ハッピーデスデイ

19時50分、母が料理を作りながら俺に言う。

「あら、もうこんな時間。じんけいのこと迎えに行って来て」

圭は俺の二つ下の弟で、20時まで近くのスーパーでバイトしている。

「えーやだよ。免許取ったばっかりだし」

俺は3日前に運転免許を取ったばかりだ。

「運転しないと上手くならないよ。ほらもう20時になるから迎え行って」

「わかったよ」

俺はパジャマのまま靴を履き車に乗り込んだ。

エンジンをかけて、少し古いバンドの曲をかける。

ライトをつけてから、慎重にペダルを踏み、スーパーに向かう。

着いた時にはもう、弟は外で待っていた。

「おぉ!兄ちゃんの運転じゃん!」

車に圭を乗せるのは今日が初めてだからか、なんだかワクワクしているように見える。

人を助手席に乗せているとすごく緊張する。

赤信号ではブレーキを2、3回に分けて踏む。

「僕も早く免許取りたいな」

「運転なんて全然楽しくないよ」

そんな話をしていたら信号が青になった。

ペダルを踏んだ途端、右から信号無視した車が突っ込んできた。

ドーン

お互いの車は、ぶつかると同時に爆発し、俺と弟の圭は即死した。

頭の中を走馬灯が駆け巡る。

修学旅行や、部活などのたくさんの思い出。

「これが走馬灯か…」

俺はよく冷静と言われる。

自分がもう死ぬとわかるから、「死にたくない!」と取り乱すこともない。

これが運命なんだなと思うだけだ。

だが、俺も圭も死ぬにしては若すぎるんじゃない?とは思うから、もし神様にあったら言ってみようと思う。

天国に行けますようにと心の中で祈った。


死んでから5分ほど経っただろうか。

目の前がずっと暗い。

「あれ?」

ここで俺は違和感を持った。

まだ体の感覚があり、少し寒いのだ。

そこで俺は目を開けてみた。

「…なにこれ」

目を開けて見えたのは、江戸時代のような街並み。

すぐに気づいたのは圭がいないことだ。

「圭!圭!」

俺は立ち上がって圭を探した。

「塔を登れ!」

「なんだ!?」

頭の中で声が聞こえた。

「塔を登れ?」

今聞こえた言葉について考えながら周りを見渡した。

「なんだあれ…」

俺の目に映ったものは、鳥肌が立つほどでかい建物。

円柱で、塔のように見える。

「もしかしてあれが塔か?」

そこで俺は、歩いてる人に尋ねてみることにした。

「すみません。聞きたいことがあるんですけど、あそこにあるやつって塔ですか?」

「ああそうだよ。あんちゃん、そんなことも知らないなんてどうやって生きて来たんだい?」

「すみません、ありがとうございます」

ここで一旦、今の状況を整理することにした。

死んだと思ったのに生きている。

もしかしたら死んでいるのかもしれないが、生きてる感覚が確かにある。

異世界に転移したのかもしれない。

「まずはこの世界について調べるか」

俺はこの街を探索し、この世界について聞いてみることにした。

城下町のような雰囲気で、非常に賑わっている。

店にある時計を見てみると10時30分だ。

俺は同世代にみえる男に話しかけた。

「すみません、お聞きしたいことがあるんですけど…」

「おう!なんでも聞きや!」

(優しい人でよかった)

「まず、信じてもらえないと思うんですけど、僕は違う世界から転移して来たんです」

「まじで!?むっちゃすごいやん!」

「信じてくれるんですか!?」

「当たり前やん!顔が真剣やもん」

(めっちゃいい人だ)

「この世界について聞きたいんですけど…」

「ちょっと待って、君の名前と年齢教えて」

(そういえば自己紹介するの忘れてたな)

「僕の名前は黒井仁くろいじんです。年齢は18歳です。よろしくお願いします!」

「18歳!?俺も18歳やで!これからよろしくな!あ、名前言うの忘れてた。俺の名前は狐哲こてつ。タメ口でええからな!」

(めちゃくちゃ陽キャだなぁ)

「じゃあまず、この世界について教えてほしい」

「OK。まず、この世界は三つの国に分かれてる。上側にある国がよるくに。一日中夜っていう不思議な国や。写真見る?」

そういうと狐哲こてつはスマートフォンのような物を取り出して、写真を見せてくれた。

そこに映っていたのはサイバーパンクな雰囲気のビル群。

「綺麗だね」

「せやろ。この国の人たちはみんな体を改造してるんや。そんで、左側にある国がくに。この国の人たちは魔法を使うことができる」

また写真を見せてくれたので見てみると、ヨーロッパのような街並みで火を出している人が写っていた。

「最後に右側にある国が俺らが今いる国で、さいくに。この国の人は生まれつき属性がある。火とか氷とか雷とか、他にもあるけど目元の模様でわかるぜ。ちなみに俺は火」

狐哲の目元を見てみると確かに火の模様がある。

そういうと、狐哲は手から火を出した。

「すげぇ!」

「いや仁にもあるやん。しかも氷。まあまあ珍しいで!」

「まじ!?ちょっとカメラで見せて」

見てみると、雪の結晶のような模様が目元にある。

「どうやって氷出すの?」

「出そうと思ったら出せるで」

(氷出ろ!)

力を込めたが何も出ない。

「出えへんなぁ」

「もしかしたら異世界から来たから無理なのかも」

少し気まずくなった。

「そんでこの世界の真ん中にあるのがタワーと呼ばれてる建物で、上に上がるにつれてたくさんのお宝が入手できる。例えば、どんな病気も治す薬とか、最上階には、どんな願いも叶う宝がある」

「どんな願いも!?」

「せやで!どんな願いも!」

(じゃあ塔に登って、そのどんな願いも叶う宝を見つければもともといた世界に戻れるのか?)

「その塔登りたいんだけど、どうすればいい?」

「まじ!?俺ら《・》も登ろうと思ってたんだけど、仲間になってくんない?」

「俺ら?」

(仲間がいるのか?)

「うん!塔を登るには二つの条件があって、まず一つ目が、メンバーが7人。二つ目が、三つの国の国王からの許可をもらうこと。この二つをクリアできたら塔を登る権利をもらえるんや」

「本当に仲間になっていいの?」

「当たり前やん!逆に仲間になって欲しい!まだ俺含めて3人やもん!仁が仲間になってくれたら4人になる」

「じゃあ、これからよろしくお願いします!」

「まじでよろしくな!じゃあこれから俺らのアジトに連れて行くで」

「アジト!?ワクワクするなぁ」

「俺が選んだ最高のメンバーやから楽しみにしといてな。じゃあ行くぞー!」

「おぉー!」

今日から俺の冒険が始まった。

弟を探し、もといた世界に戻るための冒険が。


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