第82話 ビフレスト防衛戦③
フレイヤとバルドルは今度は市街地から見て北西の方角に飛ぶと、先ほどと同様に進軍していた敵軍勢を地割れを起こして足止めした。一時間と経たない内に、二人を乗せたフギンとムニンはトールたちの元へと帰還を果たした。これで一日程度の猶予はできただろう。一同は部隊の配備について協議する。
「トール・ヘイムダルの部隊は市街地より南東に、バルドル・テュールの部隊は南西に展開している。それぞれ北上して突如出現した敵軍に当たるのが手っ取り早いが……」
フレイはそう言いながら、戻って来た妹フレイヤをじっと見る。ブリーシンガメンに溜まった土のマナをすべて用い巨大な地割れを二回も起こしたのだ。ひどく疲弊しているようであった。
フレイには現状神器が無く、フレイヤは疲労状態。このままの配置でよいものかとフレイは悩んでいる。
「別に問題ないだろう。それがもっとも無駄がないはずだ」
フリーレが迷いの無い声で言った。
「しかし大丈夫か?敵は北西、北東、そしておそらく南からも来るだろう。我々も敵は南から来ると思っていたからそちらにばかり軍を配備していた。敵もそれは分かっているだろうから、南から来る軍がもっとも強大であることが考えられる。私には神器が無く、フレイヤは疲労困憊……このままでは南に当たる部隊で隊長格は実質フリーレ一人だけの状況なんだぞ」
「なんの問題もない。私が三人分頑張ればよいだけだ。それとも今から部隊を再編成し、展開し直す時間があるのか?」
「……」
フレイは押し黙った。ヘイムダルがパンと手を叩く。
「いいでしょう。彼女の言う通り時間が惜しい。地割れで足止めは出来ましたが、一日あるかも分からない程度の時間です。我々は一刻も早く、北に出現した敵軍にも対応しなければなりません。南に配備の部隊は第五・第六・第七部隊のままで、それ以外は北上するとしましょう」
「そうだな……結局それしかねえか」
トールも同意した。
フギンにトールとヘイムダルが、ムニンにバルドルとテュールが騎乗し飛び立つ。それぞれ自分たちの部隊が駐屯している場所へ戻っていく。
去り際にヘイムダルがフリーレに言う。
「フリーレさん、言った以上は貴方には三人分の働きをして頂きます。三方向の内、南から来る軍勢が間違いなく最大勢力でしょう。将も
「心配ない。言ったはずだ、私はこの国に必ずや貢献してみせると」
「その言葉……真実となることを祈っていますよ」
心からそう思っているのかどうか、いまいち読み取れない声音だった。ヘイムダルたちを乗せた巨鳥が飛び去っていくのをフリーレは見送った。
◇
アレクサンドロス大帝国ザイーブ州。
カウバル城内の玉座の間でリドルディフィードは進軍の様子を見物していた。膝上にはマルファスを座らせており、ハルファスは玉座のひじ掛けに腰掛けてリラックスしている。
部屋の中央にはビフレストの様子が映し出されている。偵察部隊の一人ラウムが現地で見ている状況を共有しているのだ。偵察部隊には状況を遠隔で共有する能力が備わっており、ラウムから発信された情報をハルファスとマルファスが受信して映像として映し出していた。
映像では第17師団”先遣部隊”のキメリエス隊が、大地溝を大きく迂回しながら進軍を続けている。
「フハハハ!ラグナレーク王国め、やるではないか。まさかこのような形で時間稼ぎをされるとはな」
「すごーい!あんな地割れを起こしちゃうなんて」
皇帝は敵ながら
「ねえ、リドルディフィード様、聖空部隊を呼んで大地溝を渡らせた方が早いんじゃないかな?」
マルファスが背後の皇帝を振り返りつつ見上げて言う。
「いや、聖空部隊をわざわざ呼ぶ手間と、大地溝を迂回することで発生するロス……どちらも大差はないだろう。呼んだところであまりメリットはないだろうな」
皇帝はマルファスの頭を愛おしげに撫でまわしながら言うのであった(ちなみに第13師団”聖空部隊”は末端の兵士から将に至るまで、すべてが飛行能力を持つメンバーで構成されている部隊である)。
「しかし、ブリーシンガメンか……素晴らしい神器だな!アレは是非とも欲しいものだ」
「ストラスの報告だと火、水、風、土の四つの力を操れるみたいだよ。さっきのは土の力で地割れを起こしたんだね」
「四元素か……!ファンタジーの基本中の基本だな!フハハハ!やはり素晴らしい!アレさえあればメラもエアロもできるのだな!」
「メラ……?エアロ……?」
マルファスは、また主様がおかしなことを言っているなあ、といった目で皇帝を見る。
「ミストルティンというのも面白いな、様々な役目を持つ植物を生やせられる。ラグナレークの隊長勢はみな神器持ちらしいからな。他の神器がどのような活躍をするのか、今からワクワクが止まらん……!」
「……リドルディフィード様、楽しそうだね」
「当然だ、ストラスの報告でそれぞれどのような神器か大体は把握しているが、やはりただ聞くのと実際に見るのとでは違うからな」
「そうじゃなくて……敵側のことなのに、なんで嬉しそうなのかなって」
マルファスは、敵が持つ神器の活躍を楽しそうに語る皇帝陛下が不思議でならなかったのだ。皇帝は再度マルファスの頭を撫でて言う。
「敵が魅力的なのは実に喜ばしいことなのだ。その方が戦い甲斐があるし、負かした時の喜びも増すからな」
「……そういうものかな」
「そういうものなのだ。それに人気作品というものは得てして敵側にも魅力が有るものだからな!フハハハ!」
実に楽しそうに笑いながら、皇帝は傍らに用意していた卓上のワイングラスを手に取る。ニ、三程振り、ワインを口に流し込み、恍惚気に口元を鳴らした。
「さあて、どうやら今度の敵は一筋縄ではいかないようだ。まあ一方的な蹂躙で終わる戦にも
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