第29話
「とても綺麗です…」
「綺麗だよね」
「空気も綺麗で…」
「言われてみれば」
「風がちょっと強いなって…」
「そだね」
でも、そんなことがどうでもよくなるくらい、
「光の下は、気持ち良いですね」
「笑った」
アカネくんが、ほんの少し重なるように言う。
あたしは「え?」と顔を上げた、と同時に、
頬を包むように、アカネくんの両手があたしの顔を固定した。
「っあ、か…」
吃驚して瞬きが早くなる。指先が隠れそうになるまで、カーディガンの袖を伸ばしたアカネくんの手が、あたしの頬に触れていた。
「トップはそっちの方がいい。陰より、光のが似合ってる」
「っ」
「黒はね、どんな色にも負けない、凄い色だと思ってる。他の色をどんなに混ぜても、絶対黒には勝てない」
一際強い風が、足元を通り抜けていく。
「白にも赤にも、青にもね。……でも、」
その風が、あたし達の髪を揺らし、フェンスを揺らし、舞い上がるようにして消えて行く。
「光には、負けちゃうんだ」
「……」
「太陽の下にいたら、光を吸収して、吸収しすぎちゃって、いつか熱くなりすぎちゃって、限界がきちゃう」
「……」
「でも、光を与えてくれる存在がそれを調節してくれれば、きっと黒も壊れることはない」
「あか……」
「俺はね、トップがそんな存在になればいいと思ってる」
「え……、」
「みんなの光になって、適度にみんなの指標になればいいなって」
珍しく饒舌なアカネくんは、真っ直ぐにあたしを見つめる。
相変わらず瞼は重そうだけれど、その言葉はまるで冗談を言っているようにも聞こえない。
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