第9話

ああ、わかった。


こいつの言いたかった単語が。


本当、何を言い出すかと思えば…呆れる。


深く溜息を吐いて、俺は額を押さえた。






「違う。大体それ、ロリコンって言わないし」



「え、でも、」



「言っておくけど、その言葉は全部、景虎さんに当て嵌まるものだから」



「え~、じゃあさぁ」



片柳がまたのんびりと口を開く。


またくだらないことを言われる気がする。





「トップと俺が結婚したらどうする?」



「どうもしない」



「じゃあ、景虎さんと結婚したら」



「死ねって思う」



「ほら」



「ほらじゃねーよ」



「!!、水波が口悪い!」




悪くなるに決まってる、本当なんなのこいつ。イラっとする。


睨むように見れば、片柳はやっぱり、普通の顔で俺のことを見ていた。



中に着た、黒いTシャツ。


クリーム色のカーディガンと、袖まくりしたシャツから伸びる細い腕。


暑苦しい、と思いつつ、俺はふと疑問に思ったことがある。





「……片柳って、なんでいつも厚着なの」



「え、なに?もしかして水波、俺に興味持ってくれたの?」



「違うし、いちいち面倒くさい勘違いするなよ。疲れる」



「えー…」




残念そうにしながら、片柳が捲くった袖を元に戻していく。


その行動を見ながら思う。


もしかして恰好に関する話は、片柳にとっては触れてほしくない所だったのだろうか。



季節を考えたら、片柳の恰好は少し不相応だけど、そこまで違和感がある……ってほどでもない。


見慣れてしまっているから、そう思うだけなのかも知れないけど。




妙な沈黙が流れた後、片柳は瞼を上げながら俺を見た。

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