第8話

ひょい、と顔を覗き込むように俺に声をかけてきた片柳から離れる。ゲームはどうした。


っていうか、




「………黒?」



「そうだよ、俺たちのことまとめてそういうの。聞いたことなかった?」



「…………あるよ」




嫌でも聞くよ、こんなに近くにいれば。




「……それって、まさか単純に〝北〟にあるから、黒って言うの?」



「北?」



「東西南北は方角だけじゃなく、季節で例えることもある。北に当てはまるのは〝冬〟だから…〝冬〟を色で表せば〝黒〟だろ」



「へえ……水波は色々知ってるんだねぇ」



「普通は知ってる」



「でも残念、違うよ。言ったことなかったっけ?昔のトップが〝黒なんちゃら〟って人で、その名前から引っ張ってきたって」



「………」



なんか聞いたこともあるかもしれない、…けどあまり覚えてない。


へえ、とも言えず、何も言わないでいると、


片柳が、また俺の顔を覗き込むように近づいて来た。





「ねえ、水波って」



「……なに」



距離をあけつつ、短く返す。





「〝黒〟自体には興味ないでしょ」




顔を上げれば、片柳が涼しい顔でこちらを見ている。


片柳は人と話す時、必ず相手の目を見て話す。


それが、片柳のいいところであり、時と場合によっては、煩わしくもある。





「でも、トップがいるから、がんばって調べてる」



「……だったら何」



流しておこう。否定するのも面倒だ。




「水波はさぁ……」



「……」



「ろりこんなの?」



「は?」




随分と気の抜けた声が出た後、少し怒りがこみ上げる。


何故この流れでそんな言葉が出てくるのか。



「お前、その言葉の意味わかってんの?俺がいつ……、」



「だって水波って、」




きょとんとした顔で、片柳が続ける。





「トップのこと、好きだよね?」



「………」

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