第3話

片柳は相変わらず何を考えているのかわからない眠たそうな顔で、長い脚を動かし、俺の後ろをのろのろとついてくる。




週明けに出会ったこの男は、今まで以上に変なヤツになっていた。


今まで以上にしつこく俺に絡んでくるし、何かと勝負に結びつける。


今日に限って近衛はいないし、ストッパーというか、逃げる口実が一段と少なくなったせいで、否応なしに珍しく片柳を相手にしている。



している、というか、


せざるを得ない状況に追い込まれる、と言った方が正しい。







「ねえ、もしかして水波さぁ」



「……」



「冬馬さんの家に行こうとしてるの?」




学校帰りに片柳が勝手に俺の後を付いて来たから、なんとか振り切ろうとして道順をデタラメに歩いていたら〝神山冬馬〟の家がある近くまで来ていた、



と言ったら、この男は信じるだろうか。



立ち止まって振り返ると、続けて片柳も歩を止めた。


なんでもない顔でこちらを見ている。


別に騙そうと思っているわけじゃない。


ただ理由を聞かれたら面倒だなと思うだけ。






「あ、なるほどそっか。ここまで来たら冬馬さんの家で、ゲーム勝負しようってことか。無料だし」



「何をどう考えればそうなるんだよ」



「俺ヨッシー使うから伊吹はピーチね」



「……もう勝手にすれば」



どうにもならない気がして、再び前を向く。


初めて俺が妥協したセリフを吐いたから満足したのか、片柳は鼻歌交じりに後ろを歩くだけで何も言わなくなった。





冬馬さんの家に着き、俺は門の傍にあるインターホンを押す。


片柳は「そんなことしなくても勝手に入ればいいのに」と、不思議そうな顔をして俺を見ていた。


そんなことを言われても、俺は別に冬馬さんと親しいわけでもない。当然、あまり話した事さえない。



それでも聞かなければならないことがあるから、今日はここに来た。


家柄、育ち、これまでのこと。


全てをひっくるめて、〝あちらの世界〟に最も近いと言える人物だからこそ、聞けると思った。




ここ数日で調べた、八神綾人の件についてと、




それから、あの人……、




蔵木翡翠という人について。

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