第二回目 封滅域 その①

◆第二回目 封滅域デッド・ロック その①


俺たちは無言のまま、マンションの内廊下を進んでいく。静かな空間に俺たちの足音だけが響いていた。どこか不安を煽るような静けさが、壁の中に吸い込まれていくような感覚を引き起こす。


803号室の前にたどり着くと、目の前に現れたドアは、無機質で真新しい。何の異常もないように見えるそのドアは、しかしどこか違和感を放っている。


「……開いてるな。」


瑠亜が冷静に呟いた。俺はその言葉に反応してドアノブを見つめた。確かに、鍵はかかっていない。開け放たれたまま、俺たちを待っているかのようだった。


「無用心すぎる……か?それとも、こっちを待っている……?」


ただ単に鍵を閉め忘れたのか、それともおびき寄せるための罠なのか。俺たちに確かめる術はない。ただ、一つ確かなのは、このドアを開ければ、何かが始まるということ。


俺は静かに息を吸い込み、ドアノブに手をかけた。


ドアノブをゆっくり回し、慎重にドアを開けた。音もなく開いたドアの向こうは、異様なほど静かだった。中に足を踏み入れると、その静けさがさらに際立つ。普通の部屋のはずなのに、何かが狂っているような感覚がする。


「……誰もいないな。」


俺が呟くと、瑠亜は周囲を警戒しながら部屋の中を見渡す。


「そうみたいね。でも、油断は禁物よ。」


俺たちは慎重に部屋を歩き回る。室内は驚くほど整っていた。白い壁に、無駄のない配置の家具。全てがピカピカに磨かれ、整然としている。まるでショールームのように、誰かの生活感は一切感じられなかった。


「思ってたよりも綺麗だな……」俺は違和感を覚えながらも、目に入る異常な清潔さに言葉を漏らす。


「整いすぎている……まるで、ここに人間が存在しないみたいに。」


瑠亜の言葉には鋭さがあった。確かに、この部屋には温もりがまるで感じられない。それが、妙に不気味だ。


リビングのテーブルに目を移すと、そこには一振りの包丁が無造作に置かれていた。キラリと光を反射するその刃は、鋭利で、使われていないにもかかわらず、どこか禍々しいものを感じる。


「……包丁か?なんでこんな場所に……」


俺は不安を感じながら包丁を見つめる。それはまるで、誰かを待っているかのように置かれていた。


「普通じゃないわね。この状況では……何かの意図を感じる。」


瑠亜も包丁に目を向けたが、その表情に動揺はない。俺は胸の中に渦巻く感情を押し殺しながら、さらに部屋を探索することにした。


本棚には何冊かの本が並んでいたが、手に取ってみると中身は空っぽだった。ページをめくる度に、虚無感が広がっていく。


「中身がない……ただの飾り物か?」


「いや、違うわ。これはフェイク……注意を逸らすためのものかもしれない。」


棚の引き出しを開けると、そこにはいくつかの小物が無造作に並んでいたが、特に目立ったものはない。だが、何かが胸の奥でざわつく。ここには、何かがおかしい。


何も見つからないのに、妙な圧迫感が体にまとわりついている。息をするたびに、重たい空気が肺に入り込む感覚だ。心拍が早まり、冷たい汗が背中を伝う。この部屋にいるだけで、感覚がどんどん鋭敏になっていくようだ。


「……この部屋も、何かがおかしい。」


俺は胸の高鳴りを抑えられず、目の前にある普通の光景に不安を感じていた。何も特別なものはないはずなのに、全てが異様に感じられる。


「敵の素質の影響かしら……?感覚が増幅されているのかもしれない。」


瑠亜は冷静に部屋の隅々を観察していたが、その視線には一切の油断がなかった。俺もそれに倣って気を引き締めるが、心の中で不安が大きくなっていくのを感じる。


「早く……敵を探そう…」


その時だった。突然、俺の体が異様に熱くなり始めた。胸の奥からじわじわと広がる火照りが、次第に全身を支配していく。額に汗が滲み、呼吸が浅く、熱が体中を駆け巡る。頭がぼうっとして、視界が揺らぎ、まるで理性が溶け出すような感覚だった。


「あ……あつい……」


喉が渇き、体が勝手に動き出す。自分では止められない、強烈な衝動が内側から沸き上がり、俺はふらつきながら瑠亜に手を伸ばした。


気づけば、俺は瑠亜の胸に手を伸ばしていた。柔らかな感触が指先に伝わり、まるで弾力のあるものを包み込むような感覚が、俺の手にしっかりと残る。思わずそのまま揉みしだいてしまった。


「何して……っ……」


瑠亜の声が震え、彼女の体がビクッと大きく震えた。その瞬間、彼女の顔が少し歪み、快感に押し流されているのがはっきりとわかる。胸元に残る俺の手の感触は、そのままじわじわと熱を帯びていく。


「ダメ……やめて……」


そう言いつつも、彼女の体は俺の動きに反応してしまっていた。俺はさらに、手を彼女の股に滑り込ませる。下着越しに伝わる温かさと湿り気が、指先に感じられた。


「……んっ……や、やめて……」


彼女の体が再び大きく震えた。口元からはヨダレが垂れ、声には震えが混ざっている。けれど、その震えは恐怖からではなく、どこか期待や快感に満ちたものだった。


「体が…勝手に…」


彼女の息遣いが荒くなり、頬が赤く染まっていく。その目には、理性がもうほとんど残っていないように見えた。


しかし、彼女の目元に浮かんでいたのは涙だった。無邪気な、まるで子供のような涙だ。恥ずかしさに耐え切れず、溢れ出したその涙は、彼女が耐えきれない何かを抱えていることを示していた。


「……嫌だ……こんなことされて……」


泣きながらそう呟く彼女の声が、頭の中に反響する。彼女は快感に身を委ねつつも、その恥ずかしさと屈辱に涙をこぼしていた。


だが、その涙は次第に止まり、彼女の表情が変わり始めた。目の中に宿るのは、怒りと憎しみ──


「やめろつってんだろッ──────!!!!」

次の瞬間、鋭い蹴りが俺の顔面を直撃した。


「ぐっ……!」


俺は顔に強烈な衝撃を受け、バランスを崩してよろめいた。鼻からは鋭い痛みが走り、次の瞬間、温かい血が流れ出すのがわかった。鼻血がタラタラと垂れ、顔を押さえる。


痛みが全身に広がり、そのおかげでようやく正気に戻る。鼻血が顔に広がり、鮮明な痛みが意識を呼び戻してくれた。

しかしただの蹴りだ。あんなに痛いはずがない。

段々と分かってきた、敵の素質が…


「正気に戻ったみたいね……」

「だな…あれ以上はやばかった…!!!」

「これ以上おっぱじめたらただの官能小説が出来上がっちまう!!!」

「何を言ってるのあんたは…」


瑠亜が冷たい目で俺を見下ろしている。彼女の瞳には怒りが宿り、その足はまだ微かに震えていた。


「……敵は……どこだ……!」


鼻血を腕で拭いながら、俺は部屋を見渡す。何も見えないが、確実にこの部屋のどこかに潜んでいる。俺たちを狂わせる敵が、確実に存在しているのだ。


「早く見つけ出さないと……!」


必死に部屋を見渡した。だが、敵の姿は見えない。部屋には家具と雑多な物があるだけで、ただ静まり返っている。しかし、この異様な状況──体が勝手に熱を帯び、理性を奪われていく感覚が、確実に敵の存在を物語っている。


「くそ……どこだ……どこに隠れてやがる……!」


俺の心拍はまだ速く、汗が額から滴り落ちる。体が震える。焦りと苛立ちが一気に押し寄せてくる。正気に戻りかけたはずなのに、再び感情が爆発しそうになった。


「宙、落ち着け。無駄に動いても、敵がどこにいるかなんてわからないわ。」


瑠亜の冷静な声が耳に入る。しかし、その声に耳を傾ける余裕はない。俺は鼻血を拭いながら、頭を抱える。


「落ち着けるかよ……!このままだと、俺たちが……」


言葉が途切れる。なぜか体が再び熱くなり、胸の奥から奇妙な高揚感がじわじわと膨れ上がってくるのを感じた。感覚が増幅している。まるで、感情そのものが制御不能なほど強くなっていくような……。


「まさか…………」


俺はようやく気づき始めた。さっきからこの奇妙な感覚は、何も自分の意志で起きているわけではない。敵が感情や感覚を操作し、増幅させている。だが、その確信を得る前に、再び自分の中で感情が膨れ上がっていく。


「くそ……まだ抑えられないのか……!」


俺は壁に手をついて、必死に冷静さを保とうとした。しかし、体は再び反応し始める。今度は熱が胸の奥からではなく、全身を包み込んでくるようだった。


「宙……」


瑠亜の声が聞こえるが、遠く感じる。頭がぼうっとして、体の感覚が鈍くなる。だが、その一方で、皮膚は異常に敏感になっている。空気が肌に触れるだけで、それがまるで刺激に感じられるような感覚だ。


「何なんだ、これ……!」


全身が震え、立っていることすら難しい。まるで体が自分のものではないような感覚だ。理性が溶け出していくように、感情が制御を離れていく。俺は必死にその感覚を押し留めようとするが、まるで止まらない波が次々に押し寄せてくる。


「宙……大丈夫か?」


瑠亜が近づいてきた。俺の肩に手を置く。だが、その感触が逆に俺の体をさらに刺激する。


「やめろ……!今は触らないでくれ……!」


彼女の手が肩に触れただけで、全身に衝撃が走ったように感じた。体が熱くなり、再び理性を奪われていく感覚が強まる。息が荒くなり、思わず拳を握り締めた。


「……このままじゃ……!」


俺の体が反応し始める。感覚が増幅され、もはや何が現実なのかわからなくなりつつある。だが、その一方で、感覚がクリアに感じられる部分もあった。全てが増幅されているのだ。喜び、痛み、恐れ……全てが混ざり合い、俺の中でぐちゃぐちゃに渦巻いている。


「敵……早く見つけないと……」


瑠亜も気づいているのか、部屋の中を鋭く見渡している。俺たちは、どこかに潜んでいるはずの敵の存在を感じていた。だが、その正体はまだわからない。


「奴は……どこだ……!」


部屋のどこかにいるはずだ。しかし、俺たちの感覚を増幅させ、狂わせているその敵は、まるで空気そのもののように、姿を隠していた。


体が熱くてたまらない。手足がじんじんと痺れ、まともに考えることができない。目の前の景色すらぼやけて見え、部屋の中の空気が重たく感じる。どこかで異様な気配を感じているのに、焦りと苛立ちがさらに感覚を狂わせていく。


「くそ……なんだこれ……」


俺は額に滲む汗を拭いながら、荒い息を吐く。また全身が火照っている。頭がぐらぐらして、冷静さを取り戻そうとすればするほど、体が言うことを聞かない。さっきの出来事の残像が、俺の中にまだ色濃く残っていた。


「……何かがいるのは確かだ。けど、姿が見えない……どういうことだ?」


瑠亜が冷静に周囲を見渡しながら、鋭い目を細める。だが、彼女ですら、今の状況を完全に把握できていない様子だった。俺たちは確実に敵の影響を受けているが、それがどこから来ているのか、はっきりとした手がかりがつかめない。


「感覚が……増幅されてる……そんな気がする…」


俺の体は再び勝手に反応し始めていた。目の前の何もない空間が、妙に歪んで見える。俺の皮膚が空気の中に漂う湿り気を異様に敏感に感じ取り、服が擦れる音さえ、耳の中で反響しているようだった。


「これは……敵の素質だ。感覚と感情を……操ってる……」


そう言いながらも、口の中が乾き、喉が焼けるように渇く。言葉が震えるほどに、全身が反応していた。何も触れていないのに、皮膚の表面が何かに撫でられているような錯覚すら感じる。神経が逆撫でされ、背中を這うような冷たい感覚が襲ってきた。


「奴は……どこに……いる……?」


声が震え、焦燥感が体中を駆け巡る。胸が高鳴り、心拍が異常に速くなる。こんな状態で、どうやって敵を見つけるんだ?俺は必死に頭の中を整理しようとするが、感覚が過敏すぎて思考がまとまらない。


「ここにいるのは間違いない……」瑠亜が鋭く言った。


「でも、どこだ?見えない……いや、もしかして……姿を隠しているのか?」


「その可能性は高いわね……けど、奴はただ姿を隠してるだけじゃない。私たちの感覚そのものを操っている……だから、現実が歪んで見えるのよ。」


瑠亜の言葉に、俺はハッとした。感覚を増幅させているのは間違いないが、同時に俺たちの知覚を混乱させているのかもしれない。何かが……目の前にあるのに見えない。敵は、すぐそこにいるはずだ。


「くそ……どこだ!?感じるのに、見えない……!」


苛立ちが一層膨れ上がり、拳を強く握りしめる。焦燥感が俺を押しつぶしそうになる。敵がすぐ近くにいるのに、まるで手が届かない。目の前の何かに手を伸ばしても、それが掴めないような感覚が俺を苛んでいた。


「……感覚を操ってるなら……逆に、それを頼りにするしかないかもしれないわ。」


瑠亜が冷静に言った。確かに、見えないなら感覚に頼るしかない。だが、その感覚すら操作されている。どうすればいい……?


「感覚を……増幅させているなら、何か手がかりがあるはずだ……」


そう言いながら、俺は耳を澄ませた。異様な静けさの中で、空気の流れが変わる音が微かに聞こえた。それは、まるで誰かがそこに潜んでいるかのような……。


「……いる……どこかにいる……」


俺は何かに気づいた。感覚が鋭敏になりすぎて、逆に敵の動きを掴みかけている。全身が過敏に反応し、肌に触れる空気の動きが、敵の存在を告げていた。


「瑠亜……感じるか?何かが、動いている……」


「……ええ、感じるわ。間違いない、奴はここにいる。」


その瞬間、俺の背後で空気が揺れた。俺は反射的に振り向いた。何かがそこにいる──だが、まだ姿がはっきりと見えない。しかし、確実に何かが動いていた。


「見つけた……」


俺たちはその揺らめく空間に、ついに敵の気配を感じ取った。




───*******後書き*******───


第2話…第二回目も読んで頂きありがとうございます!

いやぁ、危なかったですね。一歩間違えれば官能小説になってましたよ。


僕は昔からって表現は変ですが小説を書く時はその場面に合った音楽を聴きながら書くんですよ。

日常的なシーンならほのぼのした曲

戦闘シーンならかっこいい曲。

不思議なことが怒ってるシーンなら不思議な曲?。

つまりえっちなシーンを書く時はえっちなき(y殴





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