第2章 ロゼイヤ騎士団

第9話 飛鷹斬

マタイサ地区内にあるヤカフ村。そこへ向かって、風のように速いスピードで駆けている者がいた。


蓮である。先ほど、マップの機能から、目指していたヤカフ村を発見できたのも束の間。


その村がオークに襲われており、あまつさえ村人が集まっている場所へオークの歩みを進めていたのだ。


よく目を凝らさなければ見えなかった村の輪郭も、細部までよく見て取れる距離にまで近づいた。


体感速度としては、200㎞/hはでているだろうか。


転移前はよくバイクに乗ってツーリングに出ていたものだが、その際の速度を優に超えていた。


原動機を使用しない、純粋な肉体による走行でこれほどの速度を出せるのは、異常なステータスのおかげに他ならない。


ただ、今はあまり深いことを考えている時間はない。マップで見ただけではあるが、村人とオークの距離は楽観できるものではなかった。


「間に合うか……?」


全速力で駆けながら、ヒカルは呟く。


次第に目的地へと近づくにつれ、村人とオークの姿が目に入る。村人もオークも2か所で鎮座していることが分かった。


大勢の村人が集まる場所と、男に姉妹と思われる少女の3人の集団。交互に見る。どうやら、大勢の村人が集まる方はまだオークとの距離がある。


だが、男と少女たちの方は、オークが腕を伸ばし捉えんとしていた。


少女たちは、恐怖からか座りこみ、身を縮こまらせている。声をあげて逃げるように伝えても、それは難しいだろう。


「くそ、間に合わないか!」


距離があと50mばかりとなったところで、蓮は悪態をつくように言葉を発した。


このままの速度で向かっても、オークの腕が少女らを捉える方が早いと判断した蓮は、腰に差した日本刀「破邪」を引き抜き、振り払う。


端から見れば、ただ空を切ったような行動であったが、その剣筋は、オークの腕へと狙いを定めていた。


『飛鷹斬(ひようざん)』


蓮が最初に試した『剣』のスキル。


自身の魔力を刀に宿し、斬撃として飛ばす技である。


子どもの頃に漫画で見た、技によく似ていたこともあり、すぐにお気に入りのスキルとなった。


斬撃そのものの大きさは、1m程度と強力なスキルではないが、数ある遠距離斬撃の中では最も速い攻撃であり、それと相まって攻撃性能も比較的高いスキルであった。


破邪から放たれた斬撃、飛鷹斬はオークの腕を見事に捉え、スパンッときれいに切り落とす。切り落とされた腕が地面へと落下するのと同時に、オークは雄叫びをあげながら後ずさりする。


オークが後ずさったことでできた、少女たちとオークの間に滑り込むようにして入り込む。急停止したことによるマントの翻りが収まると、少女の小さな声が耳に入った。その声に答えるようにして口を開いた。


「もう大丈夫だよ、よく頑張ったね」


少女の方へと顔を向け、少しでも安心させようと、優しく声を掛けた。

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2024年9月28日 06:00

一般男性保育士 ~異世界転生RPG~ ペリカン @zenityan

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