銀色のワンダーランド~ぷーとモカとラリーの冒険~
岡本蒼
第1話 旅の案内人「フック」
不思議な国。
世界にあるのは空に輝く無数の星たちと、銀色の光を放つ城・フリーダムキャッスル。
ここでは百年に一度だけ、外界から旅客者を招いてパーティーや会議が行われる。
招かれる旅客、それは人間を癒すことが仕事のぬいぐるみたちだけで、この世界では、お喋りや、踊り、お酒まで飲めるようになれる。
ここは、銀色のワンダーランド
その名は「ナイトブリーゼ」。
ある年のクリスマスイヴの夜。彼、ラリー・ウィリアム(十歳)は二つのぬいぐるみを両手でギュッと抱いて、ベッドですやすやと眠りについていた。
ぬいぐるみの名は、男の子の犬「プー」三歳、それに女の子の子熊「モカ」二歳。
お兄ちゃんのプーは体が四十センチで茶色、頭のてっぺんとお腹が白色。妹のモカは体が二十五センチで手・足・耳、そして目の周りが黒で体は白色だ。
犬一匹に、熊一頭、それをご主人様のラリーは<人>と呼んでいた。
午前零時、部屋の窓が勝手に”バタンッ”と開くと風がヒューッと吹き込んできて白いカーテンレースを揺らした。
すると月の逆行を浴びた黒い影のフクロウが現れて窓辺にとまった。
「お呼びに来ました、私が夢の案内人のフックです」
フックのその低い声が小部屋に響いた。
「お兄ちゃん、お迎えが来たよ」
モカが隣にぎゅう詰めになったプーに言った。
「ああ、どうやら時間のようだな」
プーとモカはご主人様であるラリーの両腕から抜け出そうと動き出した。
「プー兄ちゃん、なかなか出れないよー」
「落ち着け、モカ。もっと力を入れるんだ」
二人は懸命にラリーの腕から抜け出そうと必死になった。
「いえーい、こうなったらヤケクソだー!」
そう言ってプーはベッドの横の机の上に向かって十センチもない腕を命いっぱいに伸ばした。すると勢い余ってテーブルランプを机の上から地面に落としてしまった。
”パリーンッ”
次の瞬間、ランプの割れる音が、窓辺から押し寄せる夜風に乗って辺りに響いた。
「ヤバいっ!」
フック、プー、モカは同時に声を上げた。
それでラリーは体を動かすと、プーとモカはラリーの腕から解放された。ラリーは目覚めたが、そのままじっと薄目を開けて、その不思議な光景を見つめた。
「お待たせしました、フックさん」
プーが机の上に立って言った。
「ち、ちょっと待ってよー。お兄ちゃん!」
モカも五センチほどの短い腕を一杯に伸ばし、ようやく机の上に立った。
「準備はよろしいですか、プー、モカ」
そう言ってフックは一つ羽ばたきをした。
「はい、もう大丈夫です」
「私もオーケーよ」
プーの若い子犬の声と、それにやや似た女の子の声を聞いたフックは羽を広げた。するとその大きさは数倍にも見えた。
「夢の国、ナイトブリーゼへの道よ開きたまえ!」
フックが翼を何度も羽をバタバタと靡かせると周りに風が舞い上がり、徐々に眩い光の絨毯が現れ、窓辺から星たちの散らばる夜空の彼方へと伸びて行った。
「さあ、この光の道を渡ってください」
そのフックの声を聴いた後、
「よし、行くぞ! モカ」
「ええ、お兄ちゃん」
二人は空を舞うように光の道を進み始めた。
その時だった。
「待ってくれ、プー、モカ!」
ラリーがベッドに起き上って二人を見上げたのだ。
「何ということだ、人間に気付かれるとは」
夢の案内人フックはしばらく考えた。
<これまでにない例だ。だがこうなっては仕方あるまい>
「ラリーよ、今君が見ていること、これから起きることを他の人間に何があっても話さないと誓えるか?」
フックは人間という種のラリーに問い掛けた。
「ああ、誓う。そして僕はプーとモカと一緒に行く」
瞳を輝かせてラリーが言った。
「だが生憎、人間の姿ではこの先へは行くことが出来ないのだ」
「どうすればいいの? ねえ教えてよ」
「ラリー、君の姿を変えてしまうぞ、それでも良いのだな?」
「何にでも変えればいいさ」
「よし、それでは……」
その瞬間、フックは口から虹色の玉を吐きだすと、それがラリーの身を包んだ。そして……
激しい光が数度フラッシュし、放射線状に輝いた。その後、ラリーは、
「あれ? 僕、白い子猫になってるぞ!」
「君は旅が終わるまで、その姿だ」
「やったー! ふわふわした毛がとてもいいや」
子猫、ラリーは体が二十七センチで全身が白色、おでこに黒い星のマークが特徴的だった。
「準備はいいですね?」
フックの問いに、
「ああ、いいとも!」
プー、モカの後を追ってラリーも光の絨毯に足を踏み入れた。すると三人は、
「うわーっ!」
遥か前方のクリスタルに吸い込まれていき、気を失った。
気が付くと、そこは、
<銀色のワンダーランド・ナイトブリーゼ>
だった。
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