第35話

それなのに。


ここにいると、この人たちに囲まれると、また明日が恋しくなる。


あたたかさが、ほしくなる。



「っかぞくに、なりたい、です……」



必死に伝えたそれは、この時のあたしの、精一杯の気持ちだった。


そんなあたしを見ながら、二人は何度も頷いて、伊吹はほっとしたように少しだけ表情を綻ばせて、あたしは顔を両手で覆うようにして大粒の涙を流した。




たくさん泣いて、声を上げたこの日、あたしは『水波小宵』となったのだ。


今まで我慢してた反動か、涙が止まらなくて、いつの間にか随分と泣き虫になった。



でもそれは良い事だと、飾利さんは教えてくれた。


素直になれば、相手も自分を信用してくれるから、と。溜め込まないように、悩まないように。


大きくなったらこんな人になりたい、と子供ながらに思った。



飾利さんを「お母さん」と呼んだ日。泣いて喜ばれた。


「お父さん」と呼んだ日。春明さんも同様に泣いていた。


「小宵」と呼び捨てで呼ばれるようになるまでそう時間はかからなかった。


意外だったのは「姉ちゃん」と伊吹に呼ばれた時だった。

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