第33話
飾利さんの視線がわざとらしく伊吹に向かう。伊吹は顔を逸らして、なんとも言い難い顔をしていた。
「小宵ちゃん」
今度は、春明さんがあたしの名前を呼んだ。
混乱している頭のまま、ゆっくりと春明さんを見た。目頭が熱くなる。
「びっくりさせてしまったなら、ごめんね。ただもう僕たちに遠慮はしなくていい。本当の娘の様に我儘だって言っていいし、迷惑だってかけていいんだよ。君がどんな決断をしても、僕たちはずっと味方でいるから」
円を描くように目に涙の膜が張る。どういう反応をするのが、正解なんだろう。
どう反応するのが、一番、いい子、なんだろう。
いい子……、いい子、ってこの場合、なんなんだろう。
たぶん、ちがう。そういうことじゃない。わかっているのに、頭が勝手に正解を探そうとしてしまう。
泣いたらだめかもしれないのに、瞬きさえ忘れてしまったあたしに、飾利さんが本当に、本当に優しく微笑みかけた。
「小宵ちゃんがもしよければ」
そのふわりとした笑みだけで、表情が上手に作れなくなる。
「あたしたちの家族になってくれませんか?」
ただでさえ、あたしは器用じゃないのに。
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