第32話

言葉にされるとずしりと肩に圧し掛かって気がして、足の先から血の気が引いた。


こく、と頷くと、隣に座っていた伊吹が「母さんっ」と珍しく声を上げた。




「……小宵ちゃんは、この家が嫌い?」


「……」




改めて訊ねられる。さっきよりもまだ少し働いている頭で、あたしは躊躇った後、懸命に首を振った。


嫌いなわけがない。あたしが一番憧れた家族の形が、ここにはある。


出来ることなら、こんな風に……そう思ったことだって何度もある。だから、罰が当たったのも知っている。



「じゃあ、あたしたちのことは嫌い?」



すぐに首を振る。そんなあたしの反応を眺めて、安堵したように「そっか」と呟いて、そして。




「じゃあ、家族になるのはどう?」



そう、言われて。


聞き間違いだろうかと、は、っとして顔を上げる。


いま、なんて……。



「実はね、あたしも、春明さんも、伊吹も、小宵ちゃんが本当の家族になってくれたらなってずっと考えてたの」


目が合うと、その顔を緩ませて優しく微笑む。



「……あたしね、ずっと女の子が欲しくって、小宵ちゃんがこの家に来てくれてから毎日、本当に楽しかったの。伊吹は凄くいい子で出来る子だけど、やっぱりひとりだと無理させちゃいがちでしょう?小宵ちゃんみたいなお姉ちゃんがいてくれた方が、もっと甘えられるんじゃないかなって思うんだけど……」

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