第10話
よいしょ、と身体を車内に入れれば「こよいちゃん!」と更に大きな声で名前を呼ばれた。
伊吹の前に誰か座っている。そちらを見ようとしたと同時に、「こんばんは!」と抱き締められた。
優しい香りですぐにわかる。相手は飾利さんだった。体調の関係で、なかなか外に出ることがないのに。
突然のあたたかな温もりに動揺しながら、「あ、あのっ、どうして…っ」と言えばその人は身体を離して、「だって」とあたしを見下ろした。
「今日は小宵ちゃんの誕生日でしょう?特別な日なんだから美味しいものでも食べに行こうと思って」
頬を両の手で包まれる。「さあ、行こうか」と春明さんが告げる。
瞬きを繰り返すあたしと飾利さんを眺めながら「くるしそう」と言って指摘するのは伊吹だった。
「ああっ、ごめんね小宵ちゃん!」
首を振って大人しくその隣に座る。さっきまでなんだか殺風景だった心の中が一気にあたたかくなったような気分だった。むず痒いような、そんな。
そんな。
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