第32話

あの短い時間で、そこまで見抜いたのだろうか。



あたしは、彼女の一挙一動に目が離せなかったというのに。




「でも、だからこそ、厄介に思えたけど」



「厄介に?」



「ああやって、手は汚さずに言葉で誘導して、悪い種を撒くだけ撒いて、それを面白おかしく傍観する。そういうのが、一番厄介だと、俺は思う」




そこまで言って、伊吹は「まあでも。関係ないけどね」と付け足した。


関係ないと言いつつ、なんだかんだそこまで考えてくれていたのか。




「どちらにせよ無駄なんだ。これは、俺達の問題じゃないから」



「それ、は…」



「部外者が何を考えても、当事者にはなれない。龍蔵さんは、あの後、俺達に普通に振る舞った。つまり、俺達には〝そういう〟のが求められてる」



「……」



「普通にしといてって、そういうことだと思う」



伊吹はそう言って、少しだけ目線を上げた。

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