第30話

確かに、あの時、ナツキさんと出会った時、


リュウくんもトラくんもとても遠い存在に感じたし、関係がない、と言われれば、すぐに納得してしまいそうなほど、


あの瞬間のあたしは、無力でただの傍観者だった。



ぎゅ、と手を握れば、それに伊吹が気づく。





――あれから、あたしは時間があればあの瞬間を思い出し、


そして、どこか悔しく感じていた。



明らかに、誰が見てもリュウくんを挑発していたナツキさんに、怒りを見せたリュウくんと、冷たい態度を取り、それを助けたトラくん。




あの時、あたしの取るべき行動は、


ただの傍観だけでよかったのだろうか…?



あのやりとりの後、リュウくんは「お待たせしてごめんね。帰ろー」なんて笑っていた。



いつものように。



どうしてこんな顔をするのだろう、と。思ったけれど、



遠まわしに、〝何も聞かないで〟と言われているようで、あたしは何も言えなかった。


伊吹はそれを感じとったように、先に歩いて行く。


トラくんはそんな伊吹にまたちょっかいを出していた。



彼女に会う前の時間に戻っていく、



そこにいる全員の心の中にわだかまりを残したまま。

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