家族怪議(2)
その男は、自分を井浦家の遠縁だと言った。
つまり、私とは一応親戚関係にあるらしい。
祖母が死んだことで、本家の井浦姓は途絶えてしまったが、彼は分家の井浦家の末裔だった。
そういえば、祖父の従兄弟にそういう、霊的な力を持っている人がいて、そこで神職についているらしいと前に聞いたことがあるのを思い出した。
「呪いとは、どういう意味ですか?」
突然のことで、母はとても驚いていたが、私は彼の話に子供ながら妙に納得したのだ。
「そのままの意味ですよ。お祖母様に頼まれましてねぇ、山坂家の人間が奪ったあの土地を取り返して欲しいと。そして、これまで享受してきたものをすべて奪って欲しいと」
おかしいと思っていた。
祖母が死んだ翌日に、山坂家が一家心中をするなんて。
あんなに幸せそうな、絵に描いたような幸せな家族が、一夜にして美子だけを残して全員、生き絶えたなんて。
それも、美子が誰よりも自慢していた初孫の
家族全員を包丁で刺して、最後は自決。
美子は運良く急所から外れていたために、死なずに済んだことになっているらしいが、その状況が、祖母が日頃言っていた状況とあまりにも似ていたのだ。
「あの女が手に入れたもの、夫も息子夫婦も、孫もみーんな、死んでひとりぼっちになればいいのに」と。
「ご依頼の通りに、呪いは遂行しましたので、お祖母様との約束の通り、報酬をいただきたいのです」
「報酬……? 一体、母は何を?」
母は、何も聞かされていなかったため、かなり戸惑っていた。
うちは父が事故で死んでから困窮していて、貯金なんてほとんどないし、人に呪いをかける場合の相場なんて、聞いたこともないのだから、当然だ。
「この家と、お嬢さんです」
私は家と一緒に、呪いの代償として売られたのだった。
* * *
「……井浦さんは、私に何もしないのね」
「何も? とは?」
その頃、私はまだ中学生だった。
いくら好青年に見えるとはいえ、人を呪い殺せるだなんて言い出すような男に売られて、最初は私も祖母を恨んだ。
なんてことをしてくれたんだと。
未成年に手を出す変態クソ野郎に孫を売るなんて————と。
けれど、私の予想に反して、井浦さんは一切、何もしてこなかった。
性的な行為でも強要されるのかと思っていたが、むしろ紳士的で、私が不快に思うようなことは一切してこない。
中学の担任教師の方が、よっぽど私をそういういやらしい目で見ている。
「いや、だって、私、井浦さんと結婚させられるってことですよね?」
「……誰がそんなことを言いました? 妙な勘違いはやめてください」
「違うんですか?」
「違いますよ。僕があなたをお祖母様からもらったのは、単純に僕がこれからしたいことの手伝いとしてです」
「手伝い……?」
てっきり、借金のカタに売られ、これから酷い目に合うんだと思っていたけれど、そういう話では一切なかった。
「結婚したいならご自由に、お好きな方としてください。一応、僕は今、あなたの保護者ということにはなっていますが、恋愛は自由です。ああ、ただし、僕がしようとしていることを邪魔するような男は選ばないでくれるとありがたいですね」
「……井浦さんがしようとしていることって、なんなんですか?」
私の質問に、井浦さんは顎に手を当てて少し考える。
わかりやすく伝えるのには、どう答えるべきか悩んでいたのだろう。
「実験です」
「実験?」
「山坂家のあるあの場所は、かつては神域といわれるものであったことは明らかなんですがね、今はとても穢れてしまっているので……」
井浦さんの話によれば、昔からいわれていた通り、山坂家のあるあの場所は本当に神域で、不思議なことが起こる場所なのだとか。
山坂家があの場所を勝手に自分のものにしてしまったせいで、本来ならこの村の人たちが享受するはずの神の力をすべて山坂家が吸い上げてしまっていた。
戦後になり、今は日本の経済が上昇しているためにこんな田舎でも好景気になっているが、そのうちまた下がる。
そうなると、今度こそこの村は廃村になってもおかしくないらしい。
「僕は長年この村を守ってきた井浦家の末裔として、あの場所を村人の皆さんに返したいのです。でも、返すには少々、あの地は穢れてしまいましてね……」
私は全く知らなかったのだが、かつて山祭りでは、
山坂家はその生贄を用意する代わりに、あの土地を自分のとして所有して良いと考えていたのだとか。
「生贄なんて、今時本当にやっていたら犯罪です。今は、人の代わりに動物で代用しているらしいのですが、それだと、穢れるんですよねぇ、土地が」
その穢れた土地を綺麗にするために、色々と実験をする必要がある。
井浦さんは、その実験の手はずを整えるのに村人の協力がどうしても必要だった。
そこで選ばれたのが、私らしい。
「ようするに、僕は、神様からあの土地の浄化を任されているのですよ」
だから、その手伝いをして欲しい。
そういう、話だった。
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