兄を探しています(3)
三島さんとマネージャーさんが交番で聞いた話によれば、この家は表札にある通り
美子さんには他に家族や親戚もいないのだが、先ほど通り過ぎたあの黒い家の住人が、何かあれば美子さんの面倒を見ているのだとか。
認知症が進んでいるようで、少し前まで、毎日のように交番までやって来て、よくわからない話を繰り返すという異常行動をしていたが、その度にその人が美子さんを連れ戻しに来る————というのが、この交番では日常だったそうだ。
ところがここ最近は、外出することは少なくなっているらしい。
「平和な村だけど、一応、村全体を巡回してるそうで、昼間はとくに何も声だとかは聞こえてこないそうなんですが、夜に巡回すると、笑い声とか話し声が聞こえることがあって……」
誰か来客者がいるのだろうと思っていたが、その声がかなり遅い時間にも聞こえたことがあった。
静かな山の頂上付近から聞こえて来るその楽しそうな笑い声が、なんとなく不気味に感じた人もいるのだとか。
「何か事件が起きているわけではないですし、そのお隣の方も、美子さんなら元気だって言っているらしいです」
「なるほど……」
その隣人の証言が正しいかどうかはわからない。
もしかしたら、その山坂さんの家に来ているのは、霊的な何かの可能性がある。
夜の方が出て来やすいからな……
「つまり、三島さんのお兄さんも巡回でこの家の近くまで来ることはあったということですよね?」
「はい。兄も何度か……当時の直属の上司はもう異動してこの村にはいらっしゃらないそうですが、同僚だった方がそう言っていました。当時、兄は祖母を亡くしたばかりでしたので、その美子さんのことを気にかけているようだったと」
無断欠勤になる前も、何度か美子さんについて話をしていたらしい。
お兄さんはいわゆるおばあちゃん子っというやつで、自分の祖母と美子さんを重ねていたのだろうと、三島さんは思っている。
何かしら霊障が起きるとしたら、この村ではここぐらいしか検討がつかないし、まぁ、俺の第六感が警鐘を鳴らしているのだから、十中八九ここだろう。
「お兄さんの愛用品は、持ってこられましたか?」
「はい。兄が実家で使っていたものでいいんですよね?」
「ええ、できれば、髪の毛とか爪とか……体の一部だといいんですが」
「母に話したら、兄が実家で使っていたヘアブラシと乳歯、あと臍の緒がとってあったので、預かって来ました」
「……臍の緒ですか」
臍の緒は幼い子供を探すのには適しているが、失踪時のお兄さんの年齢は俺と同じ二十六歳だ。
大人の場合、できるだけ最近体から離れたもの方がやりやすい。
ヘアブラシには髪の毛が絡まっているから、こっちの方がいいだろう。
「では、ヘアブラシをこの袋に入れてください」
事前に用意しておいたビニール袋の中に俺は線香の煙を充満させておいた。
ヘアブラシと線香の煙を混ぜて一度封をして、再び開くと、本人のいるところへ煙が導いてくれる。
「あ……」
玄関の前でそれをやってみると、煙はやはりこの家の中に向かっている。
この家に、三島さんのお兄さんがいることは確実だ。
すでに亡くなっている可能性もあるが、それは確かめて見ないとわからない。
問題は、どういう話でこの家の中に入れてもらうかだ。
例えばだが、美子さんがこの家に三島さんのお兄さんの遺体を遺棄している場合、発覚を恐れて見ず知らずの俺たちを簡単に家にあげたりはしないだろうし、程のいい言い訳を考えて、口裏を合わせておく必要がある。
認知症がかなり進んでしまっている老人相手かもしれないが、勝手に他人の家に上がるわけにもいかない。
「兄は、この家にいるんですね!」
「あ、ちょっと……ま————!!」
そう思っていたのに、三島さんは何も考えずに呼び鈴のボタンを押してしまった。
『……————はぁい』
すると、玄関の扉の向こう側から、すぐに返事がする。
『どちらさまですかぁ?』
聞こえたのは、高齢の女性の声ではなく、少し舌ったらずの、幼い子供の声だった。
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