兄を探しています

兄を探しています(1)

「兄を、探して欲しいんです」


 最近、この手の依頼が多い。

 本当に、テレビの影響ってやつは大きいなと実感した。

 まぁ、知り合いのそのまた知り合いに頼まれて出演したローカル局の番組で、占い師兼霊能力者だなんて名乗った自分のせいなんだけれど……


 普段は、占い師としてひっそりと生活してはいるものの、心霊系の話は断っている。

 昔から、そういう霊感的なものを持っている自覚はあるし、子供の頃からその霊感的なもののせいで、見ないでいいものをたくさん見て、変なものに巻き込まれたことも多かったからだ。

 だけどまぁ、占い師という職業だけで食っていけるほどの稼ぎはない。

 仕方がなく、生きるためにそういう案件に手を出すことはごくたまにある。

 はっきり言って、金額と内容によるのだ。


 放送されたテレビ番組では、行方不明になった娘の行方を霊能力で探すというものだった。

 今目の前にいる彼女も、あの番組で俺のことを知ったのだろう。

 まだ二十代そこそこか、もしかしたら十代の可能性があるほど今回の依頼者は若い。

 だからてっきり恋愛相談かと思って入店を許可したが、まさかの人探しの方で、正直驚いている。

 こう言うのは大抵、子供だとか妻だとか、長い間行方不明となっていて、警察でも手に負えない————もしくは、警察が事件性はないと判断して捜査をしてくれないかのどちらかだ。


「お兄さんが行方不明になっているんですか?」

「はい。もう一年が経ちます」

「警察には……?」

「相談しました。というか、そもそも、兄はその警察官だったです」

「警察官?」

「はい。一年前、兄は■■村という田舎の駐在所に異動することになったのですが、それから一切連絡が取れなくなって……」

「あ、すみません、今、なんて?」


 村の部分が、よく聞き取れなかった。

 雑音のような、耳鳴りのようなもので遮れれたような気がした。


「何村ですって?」


 聞き間違えかも知れないと、再度確認する。


「————■■村です」


 ああ、やっぱり駄目だ。

 聞き取れない。

 これは、あまり関わってはいけないやつだ。



* * *


 本当に関わってはいけない、危険なものであるかどうかの判断は、いつもこの耳が真っ先に反応する。

 多分、俺を守っている守護霊かなにかが、そうやって警告を出してくれている。


 依頼人の三島みしま結衣ゆいさんは、現在二十歳のいわゆるインフルエンサーだった。

 SNSや動画配信などで主に活動しているらしく、確かにそういわれれば可愛らしい顔つきをしている。

 俺はそういうものにはあまり興味がないから、全く知らなかったが、かなり稼いでいるようだ。

 関わってはいけないとわかっているから、諦めてもらおうと依頼料としてかなりの金額を提示したにも関わらず、それでいいとまっすぐな目で言われてしまっては、こちらとしても断れなかった。


 とりあえず、その■■村というものの地図をネットで検索し、印刷。

 だいたいこの辺りだという当たりをつける。

 人が行方不明、しかも、警察もお手上げ状態。

 それなら、その村に、何かやばいスポットがある可能性が高い。


 案の定、その村には一箇所、明らかにおかしな場所に建っている家があった。


「おそらくですが、この家が怪しいかと」

「この家が? 何か、感じるんですか?」

「感じるというか……この家、おそらくこの村で一番山の頂上に近い位置にあるでしょう?」

「……そうかも知れませんけど、山の頂上に近いと、何か問題があるんですか?」

「うーん、三島さんは、神様の存在は信じますか?」

「神様……?」

「山の頂上付近というのは、昔から神がいる神域である可能性が高いんです」


 この家は、その神域の中に建っている可能性が高い。

 神域の中に人間の家を建てると、妙なことが起きやすい。

 妙なことは、いいことの場合もあるが、悪いことの場合もある。


「神域は人の世とは違った次元でできているので、人間がそこに入ると何かしら支障が起きることは多々あるんです。山で遭難した人の遺体が変な場所で見つかったとか、逆に、かなりの間飲まず食わずだったはずが、軽傷で見つかったりとか……そういうのって、その神域が関係しているんですよ。いわゆる神隠しもそれに該当しますね」


 おそらく、三島さんのお兄さんがその村の警察官なら、巡回でその家の近くへ行くこともあるだろう。

 ただ、残念ながらそこに何があるか、までは、実際に行ってみないとわからない。


「それじゃぁ、兄はこの家で、何かあったと?」

「家とは限りませんが……まぁ、道路があるのはこの家までのようですし、そこから先は現地に行ってみないと……」

「それなら、行きましょう」

「え……?」

「お金なら、いくらでもお支払いします。一緒に、ついてきてくれませんか?」


 正直、俺は行きたくない。

 厄介ごとはごめんだ。


 けれど、三島さんは本気だった。

 何が何でも、お兄さんを見つけようと必死なのだ。

 それが、生きていようが、死んでいようが……そう思った。


 ここで俺が断っても、きっと、一人で乗り込むだろう。

 さすがに、そんな危険なところにこんな若いお嬢さんを一人で行かせるわけには行かない。


「……わかりました。ただし、条件があります」

「なんでしょう?」

「できることには限界があります。もし、お兄さんを見つけても、俺がいいというまで、決してお兄さんの体に触れたりしないでください」

「え……?」

「何かに呪われていたり、祟られていたり、取り憑かれている……という場合もありますから」


 そうして俺は、■■村に行くことになった。


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