姉さんの日記
姉さんの日記(1)
「妙なものを見つけてさ、お前、こういうの好きだろう?」
学生時代からの友人の一人に、幽霊だとか妖怪だとか、そういう怪しい、奇妙なものが好きな奴がいた。
先日、父の姉、つまりは俺にとっては伯母にあたる
「確かに、これはかなり興味深い代物だね」
パラパラと数ページめくっただけで、その友人にはその本の価値がわかったらしい。
こちらが金額を提示するまでもなく、友人は俺に金を渡そうとしていたが、今回ばかりは断った。
「いや、いいんだ。持ってるのが怖いからさ、むしろ、俺が金を払いたいくらいだよ」
「珍しいな。いっくんはこういうの、信じてないんじゃなかった?」
「まぁ、そうなんだけど……なんか、その、今までのとは違ってなんだか嫌な感じがしてさ……」
俺の父は、田舎の村の出身だった。
生まれは別の町だったそうだが、生家が震災に遭い火事で全焼してしまったため、父が幼少期に一家全員で引っ越したそうだ。
梅子姉さんは、父の一番上の姉だそうで、結構歳が離れていた。
村の神主だか僧侶だかと結婚し、梅子姉さんは生涯を終えたが、父は独立した後、この町で古書店を営んでいる。
この町は東京ほど都会ではないが、かといって、ど田舎というわけでもない。
けれど俺は東京で役者になるのが夢で、その資金を貯めるためにその古書店から売れないような奇妙な本を見つけては、この友人に売りつけていたのだ。
友人は、どうも相当な金持ちのようで、まだ学生だというのに金回りのいいやつだった。
「それにしても、この日記も一緒なのはいいのかい? 伯母さんのものなら、家族にとって大切なものなんじゃ?」
「いいんだよ。その日記があるからこそ、余計に嫌な感じがするというか……」
「ふーん、じゃぁ、この日記と本は一緒に保管しておいた方がいいのかな?」
「多分な。とにかく、そんな奇妙な本をうちに置いておくのは嫌なんだ。君が悪いし、なんというか呪われたり、祟られたりしそうでさ」
「なんだ、それはとても読むのが楽しみだな。ありがたく頂戴するよ」
友人が引き取ってくれて、俺は一安心した。
梅子姉さんの日記に書かれていることが本当なら、それはあまりにも恐ろしい。
手元に置いておくのは、どうしても嫌だったんだ。
けれど、その友人に本と日記を渡した後も、時々思い出してしまう。
気持ちの悪い、田舎の村に伝わる、儀式の記述。
あれから十年も経っているというのに、頭の片隅にずっとこびりついて離れない。
死んだ人間を蘇らせるための儀式だなんて、気持ち悪い。
しかも、そうして蘇ったのが俺の父だというなら、その息子である俺は一体、何人の犠牲の上に生まれたのか。
ありえないことだとはわかっていても、おそらく父も母も知らない、その出来事を、父本人の目に触れさせることもしたくなかった。
だがこの十年の間で、父は交通事故であっけなくこの世を去り、俺は東京には出たものの役者にはなれず、工事現場のアルバイトでなんとか食いつないで、工事業者の従業員として働き、普通に結婚した。
だけど、まだ夢を諦めきれていなかったのだろう。
仕事を休んで何度か小さな劇団のオーディションを受けたのがばれ、女房には愛想をつかされて一人息子を連れて出て行かれてしまった。
離婚して、可愛い息子とは月に一度だけ会えることになった。
けれど……
「
そんな息子を、俺は自ら殺してしまった。
まだ、小学生にもなっていない。
ランドセルを買ってやる約束をしたばかりだった。
どうして、そんなところに隠れていたんだ。
なんで、どうして、どうして……
ぐちゃぐちゃに潰れてしまった小さな体を抱きしめて、何度も、何度も泣き叫んだが、優一はもう、帰ってこない。
死んでしまった。
もっと早く、帰ってくれば……
いや、そもそも、今日は優一と会う日だってわかっていたのに、仕事を入れてしまった俺が悪い。
少しの間、子供達に任せて、他人にまかせて、平気だと思ってしまった俺が悪い。
不慮の事故だと、何度も何度もそう慰めの言葉を言われたが、殺したのは俺だ。
後悔しても、しきれない。
俺は殺人者だ。
自分の息子を轢き殺した、人殺しだ。
どんなに罵られようと構わない。
ただ、優一が死んでしまったことがどうしても許せない。
この現状を、受け入れられなかった。
「いっくん、あまり気を落とすな……君は悪くないよ。運が悪かった。それだけだ」
弔問に来てくれた友人の顔を見て、俺は言った。
「梅子姉さんの日記を、まだ持っているか?」
死んだ人間を蘇らせるための儀式。
梅子姉さんの日記によれば、俺の父は、その儀式で蘇った。
父は優一と同じ歳に一度死んで、蘇っている。
だったら、優一だって。
俺の優一だって、蘇るはずだ。
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