私の赤ちゃん(4)


 もし、お医者様に診てもらってもあまりよくならないのであれば、私のように何か霊的なものに取り憑かれているかもしれません。

 先生はご職業柄、多くの人たちと接する機会も多いでしょうし、誰かから逆恨みされたり、敵意を向けられたりすることも、もしかしたらあるかもしれません。

 それに、確か先生が校長先生をされているあの学校がある場所は、以前は墓地だったと聞いたことがあります。

 一度、お祓いにでも行かれてみたらいかがでしょうか?

 あの尼寺へ行けば、井浦さんを紹介していただけると思いますので、体調がすぐれないようでしたら、すぐにそうしてください。

 先生に何かあったなんてことがあったら、大変です。

 先生は、私の命の恩人でもあるのですから。


 先生は、あまりそういう霊的なものは信じない方かもしれませんが、命には変えられませんからね。

 お大事になさってください。


 それから、梅子さんからもう一つ、噂で聞いたのですが、二つ下の後輩のヨシ子ちゃん。

 苗字と漢字を忘れてしまったのですが、合唱倶楽部で一緒だったヨシ子ちゃんが、亡くなったと聞きました。

 女学校を退学したという話は、噂で聞いていましたが、私も詳しいことは知らず、実家を出ていましたので、とても驚きました。

 確か先生は、ヨシ子ちゃんの担任の先生でしたよね?


 もし、ヨシ子ちゃんのお墓の場所がどこにあるのか、知っていたら教えていただきたいのです。

 いつかお線香をあげにいきたいと思っているのです。

 梅子さんの話によれば、ヨシ子ちゃんが亡くなった後、ご両親は別の村に引っ越してしまって、連絡先がわからないそうです。

 梅子さんも、お墓の場所を知りたがっていました。

 知っていたら、教えてください。


 ここまで長くなってしまって申し訳ありません。

 本当に、もっと簡潔に、わかりやすい文章が書けたらいいのですが、私にはその才能がないようで、話があちらこちらに飛んでしまいましたね。

 国語の教師であった先生にこのようなお手紙を書くというのも、私としてはかなり勇気がいる行動ではあったのです。

 拙い文章で申し訳ないとは思っておりますが、とにかく先生に感謝を伝えたい。

 その一心で、こうして長文にはなってしまいましたが、お手紙を書かせていただきました。


 先生には、本当に感謝をしてもしきれません。

 ありがとうございます。

 今思えば、先生が私の恩師であったことも、あの絶望の中、久しぶりにお会いして、お話ができたことも、すべては不思議なご縁だったのではないかと思っています。

 きっと、神様がそうさせたのだと、私は思っております。


 先日は、つい感情的になりながら、長々と支離滅裂な話をしてしまったなと、家に帰ってから改めて思い返して反省していました。

 こうして、手紙として書いてみれば、先日よりは幾らか冷静でいられたような、そんな気がしております。

 本当に、先日は突然の訪問にも関わらず、お時間を取っていただき、ありがとうございました。


 奥様にも、とても感謝していますとお伝えください。

 淹れていただいたお紅茶とカステラの味が、今も忘れられません。

 このご恩はいつか、必ずお返しさせていただきます。

 先生も、何か困ったことがあれば、いつでもご連絡ください。

 私にできることであれば、なんでもさせていただきます。


 この手紙と一緒に、ささやかではありますがお茶菓子をお送りさせていただきました。

 村の名産品を使って作られたもので、長期の保存にも向いているのだそうです。

 秋に私が住んでいるこの村で行われる山祭りの際にも、お供物として用意されているものなのだそうで、とても美味しいので、お気に召しましたら幸いです。

 健康にも良いそうです。


 それから、もう一つ同封してある黒い箱は、お姑さんからです。

 私が先生の話をしたところ、先生のおかげで、新しい家族が増えたんだと、ぜひ何かお礼をさせてほしいということで、これもこの村の名産品の一つなのだそうです。

 お味噌汁やお鍋にお出汁として使うと美味しいので、ぜひ、使ってみてください。

 私は最近毎朝これで卵焼きを作っています。


 それと、最後になりますが、一つだけ、先生にどうしてもお聞きしたいことがありまして、こちらはぜひ、お手紙でも電報でも構いませんので、お返事をいただきたいです。

 体調の良い時で結構ですので、教えてください。


 先生は、先日、私の話を聞いてくださった後、私に言いましたよね?

 私の背中を指差して、「ずっと背負っているその人形は、赤ちゃんの遺品か」と。


 いったい、どういう意味だったのでしょう?

 私の赤ちゃんは、男の子です。

 人形なんて、女の子のものでしょう?

 そもそも、私は人形なんて背負っておりませんでした。

 それに、遺品とは?


 何かとお間違えになられたのではないでしょうか?

 思い返してみても、まったく何のことだかわらなかったので、私の聞き間違えだったのではないかと、疑問に思ったのです。


 先生、私に、あの時、何と言ったのでしょうか?



 お返事をお待ちしております。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




【私の赤ちゃん 了】

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