私の赤ちゃん(3)
私の赤ちゃんというのは、もちろん、息子のことです。
先生にお話しした際に、このことをお話ししたのか覚えていないので、改めて書きますが、実は、離縁される少し前、義母から赤ちゃんは置いていくように言われたのです。
酷いですよね。
大事な孫だからと、跡継ぎだからと、産んだら嫁はもういらないとでもいうことだったのでしょうか?
まぁ、私に取り憑いていた悪霊がそうさせていたのかもしれませんが、私はいつだって、この子とずっと一緒にいたんです。
十月十日私のお腹の中で大事に育って、生まれた後も、おしめを変えたり、お乳を飲ませたり、お風呂に入れたりと母親として当然のことを毎日していたのは私です。
小間使いのように使われ、家事を必死でこなしている間も、ずっと、この子をおぶったまま、片時も離れずにいました。
そんな私から、奪おうとしていたんですよ。
本当に、今思い返しても酷い家族でした。
私が愛情を込めて育てている何よりも大切なこの子を、奪おうとするなんて、人として最低です。
誰よりも、世間体を気にしていましたからね、きっと、私が勝手に出て行ったということにでもしたかったんでしょう。
そんなことは絶対にさせないと、必死に拒否しつづけました。
結局、突然夫から離縁を切り出されて、二人で追い出される羽目になってしまいましたが、お祓いをしたおかげで、今はこうして、幸せな新しい家族に巡り合うことができました。
あの時、私が絶対にこの子を渡さなかったので、今の幸せがあるのだと思います。
あのまま一人で追い出されていたら、当然、私の赤ちゃんを守るために生きなければならないと思うこともなかったでしょう。
先生のことも思い出せず、一人虚しく、私に取り憑いていた悪霊のように今頃は太平洋の真ん中にでも浮いてたかもしれませんね。
何はともあれ、この子があの時、声をあげて泣いてくれたおかげで、私は今、こうして生きていられるのです。
ですが、新しい家に住むことが決まってからというもの、私の赤ちゃんの成長が止まってしまったような、そんな気がするのです。
こういうものなのでしょうか?
私は兄弟の中でも末っ子でしたし、赤ちゃんというものがどういう過程を経て、どのくらいの速度で成長していくのかはよくわかっていません。
もしかしたら、何か他の子とは違う、病気ではないかとも思ったのですが、お舅さんの知り合いだという医師の方に診てもらいました。
一応、なんの問題もないとのことです。
彼とも話をしたのですが、この家のご利益じゃないかという話でした。
なんでも、本当にこの家には不思議な力があるそうで、夫もそうなのですが、本当の年齢より若く見られることが多いのだそうです。
私もまだ若いですから、いつまでも若さを保ってくれるというのは、大人にとっては良いことですし、何より、若いということは健康的だと、そういうことじゃないかと。
そう彼が言っていました。
きっと、この家が私たちを家族だと認めてくれたという証拠なのだろうと、そう、思った次第です。
そこで、私は彼に訊ねたのです。
どうして、このような不思議な、とても良い土地に家を建てることができたのかと。
ここはとても神聖な場所で、山の神様の土地だったのだと、ご近所の方に少し聞いたことがありましたので、詳しく知りたいと思いまして。
けれど、彼も、彼のご両親も、どうしてなのか、詳しいことはわかっていないのだそうです。
なんでも、この土地はご先祖様がその山神様に対してとても良いことをして、山神様から分けていただいた、とてもありがたい土地なのだとか。
もう、何百年も前からの話だそうですが、古い話ですので、当時の歴史的資料などはまったく残っておらず、とにかく、代々この家がある土地は、彼の一族が暮らしている由緒正しい土地なのだそうです。
私は彼のご先祖様に感謝しています。
こんなに素晴らしい土地を、神様から分けていただけたということは、きっと、ご先祖様はさぞかし立派なお方だったのでございましょう。
そう思うわけです。
そのご先祖様のおかげなのか、つわりも、最初の妊娠の時のようにあまり酷くなく、新しい命は、彼と私の赤ちゃんはすくすくと、私のお腹の中で育っている。
この子が生まれれば、息子はついにお兄ちゃんになる。
きっと、お兄ちゃんになれば、そこからの成長も早いことでしょう。
できれば、彼にそっくりな女の子だったらいいなと、思いはしますが、女の子か男の子か、どちらでも構いません。
この子が生まれる日を楽しみに、日々を過ごしております。
こんな幸せな気持ちでいられるのは、先生にあの尼寺をご紹介していただいたおかげです。
改めて、お礼を申し上げます。
先生があの尼寺を教えてくださったおかげで、私は井浦さんと出会い、私に取り憑いていた悪霊を祓うことができたのです。
本当に、本当に、心から先生には感謝しております。
ですが、井浦さんがいうには、私のもとから離れた悪霊は、成仏して消えたわけではないそうです。
なんと悪霊となった彼女を孕ませた男のところに飛んで行ったのだそうで、そこだけが、ほんの少し不安ではあります。
なんでも、女学校時代にそういう関係にあった例の教師とか。
もし、そんなことはないとは思いますが、先生のお知り合いの教師の方で、私のように不幸な目に遭われている方がいましたら、一度、お祓いをするよう勧めていただければと思います。
まぁ、それこそ、自分が蒔いた種ですから、自業自得だとは思いますが。
ところで、風の噂ではありますが、先生は最近体調を崩されているとお聞きしました。
実は、女学校時代の友人の家下梅子さんが新しい家の近所に住んでいまして、彼女に聞いたのです。
彼女も、噂程度でしか聞いていないということでしたが、お加減いかかがでしょうか?
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