私の赤ちゃん(2)

 私は何も聞いてはおりませんでしたが、どうも、夫には許嫁がいたそうなのです。

 親同士が決めたことではありましたが、二人の仲はとてもよく、義母も相当気に入って、自分の娘同然に思っていたのだとか。

 けれど、その方がご両親のお仕事の都合で別の町に引っ越してしまい、夫とも疎遠になっていました。

 ですが、許嫁の約束が解消されたわけではありません。

 学生の内は離れて暮らしていても、卒業後には正式に婚約し、式を挙げることになっていたのだとか。


 ところが、どうもそのお相手の方が、女学校に通っている間に子を身ごもったそうなのです。

 女学校に通っている間、夫とは一切会うことはありませんでしたから、誰か他の男とその方はいい仲になって、そういうことになったのだろうという話でした。

 当然、裏切られた夫も義両親も激怒し、婚約の件はなくなりました。

 許嫁がいて、正式に婚約する予定である身。

 それもまだ学生で妊娠するなんて、そんな女を受け入れる義理は当然ありません。

 それに、相手の男は誰だかはっきりしないそうなのです。


 なんでも多くの男性とそういう関係にあったというので、学校での成績も、そういう、教師と肉体関係によって保っていたというのですから、驚きです。

 関係のあった教師は別の学校へ転勤となり、今もどこかの学校で教師を続けているそうですが、お相手の方は女学校を退学して、身重の体で海に落ちて自ら命を絶ちました。

 自分の身から出た錆でありますから、当然といえば当然の出来事だったのかもしれません。


 しかし、井浦さんの話によれば、その方はそんなことをしでかしておきながらも、死後、夫に対して強い執着を持っていたようす。

 悪霊となり、最初は夫に憑いていたようですが、私が嫁いだせいで、その矛先を私に向けていたのだとか。


 ああ、だからこんなにも、私の身に不幸な出来事ばかり起こっていたのだと納得しました。

 義母による私への酷い扱いも、夫が私を避けるようになったのも、私が赤ちゃんと二人あの家を突然追い出されたのも、私の肉親がみんな震災で命を落としてしまったのも、全部、その女の悪霊によるものなのだと。

 これは今すぐにお祓いをすべきだと、井浦さんが教えてくださった神社でお祓いをしました。

 実はあの日以来、体調もあまりよろしくなかったのですが、お祓いをした直後からなんだかとても体が楽になりました。


 表情も明るくなったと言われるようになりましたし、不幸続きだった人生ががらりと一変したような、そんな気持ちになったのです。

 泣いてばかりいた私の赤ちゃんも、それからは落ち着いています。

 日々すくすくと育っていく姿は、本当に愛らしくてたまりません。

 男の子ですが、私にそっくりで、本当に愛おしくてたまらないのです。

 男の子は母親に似るものだと聞いていましたが、本当にその通りだなと思っています。


 そして、心も体も少し楽になった頃、本当に不思議なご縁で、井浦さんからとある男性を紹介されまして、実は私の新しく住む家というのが、その方の家なのです。

 田舎の小さな村ではありますが、その村の方達は昔から山の神様を信仰しているそうです。

 私の亡くなった両親も、そういうものを大切にしていたこともあって、きっと、天国にいる両親が結んでくれたご縁なのだと思っています。


 彼は、本当に優しい人です。

 彼の両親も、私と私の赤ちゃんのこともまるで本当にずっと自分の家族であったかのように、受け入れてくださいました。

 本当に、以前の生活が嘘のようで、朝も寝たいだけ眠っていいですし、家事も全く負担にならない程度でいいそうです。

 今のお姑さんは、むしろ私が心配になるくらいよく働く方だそうです。

 お舅さんも、優しく大らかな方で、お風呂の用意は自分の担当だって、薪割りから入浴後の掃除まで全部やってくださるそうです。

 前の義両親とは大違い。

 私はほとんどお手伝いという感じになるのではないかと思っています。


 あまりに申し訳ないので、昼食の準備だけは私が必ずさせてもらうように言っています。

 一緒に暮らしている義弟は、とても優秀な人でして、ゆくゆくは村長になるのではないかと噂されている人です。

 村の人たちからの信頼も厚く、子供達からも人気があるような方です。

 実は近々、お嫁さんをもらう予定だそうで、なんでもとても料理が上手な方だそうです。


 それに、実はまだ式を挙げる前ではありますが、彼との間に新しい赤ちゃんができたのです。

 ですから、お腹が目立つ前に、式を挙げた方がいいのではないかと、今相談している最中であります。


 今、私はとても幸せです。

 不幸の後には、必ず幸福が待っている。

 正負の法則。


 先生が私に教えてくださったこの世の法則。

 まさに、そのものだなと、今まさに実感しているところです。

 きっとこれから、私には今まで大変な目にあった分、良いことが待っていると信じています。


 新しい家は、山の坂の上に建っているのですが、最近、新しく建て替えたばかりなのだそうです。

 日本の、昔ながらな建築様式に今流行りの西洋の建築技術を合わせて作られたのだとか。

 村の中では一番山の神様がいる場所に近い土地に建っているそうです。

 なんでも、立地が素晴らしいそうで、この地に住むと無病息災。

 食べるものにも、寝床にも困らず、老いる事もない。

 ずっとずっと、幸せな時間が続くのだそうです。


 そのせいか、この家に来てからというもの、私の赤ちゃんの成長が止まってしまったような気がしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る