私の赤ちゃん
私の赤ちゃん(1)
突然のお手紙、失礼致します。
先生、先日は私の話を聞いてくださり、ありがとうございました。
あの後、先生が紹介してくださった、私のような突然夫をなくした不幸な女子供が身を寄せているお寺にて暫くお世話になっていましたが、無事に新しく住む家が決まりましたので、御礼をさせて頂きたく、筆を取らせていただいた次第です。
先生もご存知の通り、国語の成績があまり良くなかった私が書く手紙ですので、読みづらいところもあるかもしれませんが、最後まで読んでいただけたら幸いです。
私が先生の御宅を尋ねたのは、先日お話しした通り、夫に突然、離縁された為でした。
私の実家の両親、兄弟や親戚も、二年前の大地震で亡くしておりまして、生まれたばかりの赤ちゃんと二人で義実家を追い出されてしまい、途方に暮れていました。
離縁された理由にも心当たりがまったくなく、これからどうして生きていうかと、自分の不幸な生い立ちを振り返っていましたところ、女学校でお世話になった先生のことを思い出したのです。
困ったことがあれば、いつでも頼っていいとおっしゃっていましたね。
先生が私が住んでいた家の近くに新しく出来た小学校の校長先生になられたと聞いたのを思い出し、思い切って訪ねたのです。
女学校時代の友人とは、嫁いだ後疎遠になってしまいましたし、頼れるのは先生しかいませんでした。
嫁いだ後に懇意にしていただいた方達は、みなさん私が離縁されることを知っていたのか、赤ちゃんを背負って一人、当てもなく歩いていた私を白い目で見ているのは明らかでしたし、先生のことを思い出すまでは、このまま海にでも身投げしようかと思っていたくらいです。
でも、生まれたばかりの私の赤ちゃんが、大きな声で泣いたんです。
こんな小さな子を、まだ生まれたばかりのこの子の命を奪うなんて、私には決して出来ないと思ったのです。
何としてでも、生きなければならない。
どんなに辛くとも、この子のために、生きなくちゃならない。
そう、強く思ったのです。
自分を奮い立たせ、小学校を訪ね、先生の住所を教えていただきました。
繰り返しになってしまいますが、先日お話しした通り、私は離縁される理由に全く覚えがないのです。
悔しくて、悔しくて、たまりませんでした。
嫁ぐ前は、とても優しい人に見えたのですが、義母はとても厳しい方でした。
毎朝四時に家族の誰よりも早く起きて、義父か朝と夜の二回、入浴するのが日課の方でしたので、お風呂の用意。
それから、家族全員分の朝食を作って、夫と義父、義妹と義弟のお弁当を作ります。
お味噌汁は必ず鰹と煮干しと昆布お出汁から作らなければならなくて、卵焼きは、私はお出汁の味がしっかりするのが好きなんですが、砂糖をたっぷり使った甘い卵焼きじゃなければなりません。
初めて作らされた時は、あまりにも甘すぎて、吐きそうになったほどです。
朝食が終われば、後片付け、掃除、洗濯と、家事の山をこなすだけであっという間にお昼時になってしまいます。
義母と私の分の昼食を用意して、それが終わるとまた片付けをして、掃除の続きと、洗濯ものを取り込んでアイロンがけ。
そして、またすぐに夕飯の準備。
お風呂の準備をし、一番最後にすっかり温くなってしまった湯船に浸かり、すぐに出て明日の為にお風呂の掃除をしてから寝るので、布団に横になるのはいつも夜の十二時を過ぎていました。
嫌味も散々言われ、大変でしたけれど、私は夫を愛しておりましたので、なんとか毎日を乗り切りました。
こんな生活ではまともに寝る事も出来ずにいた私に、義母は子供はまだかとわざと尋ねてくるんです。
お隣に嫁いだ方はもう男の子を三人も産んだのに、お前はまだかって、言うんですよ。
息子を産んでこそ、この家の家族として認めてやるって言うんです。
悲しくて、悔しくて、たまりませんでした。
夫に頼んで、早く子供を作ろうと、あの時は必死だったのです。
早く息子を産んで、こんな生活から抜け出したいと。
実はお隣のお嫁さんと少しお話ししたことがあるのですが、妊娠中は一切の家事をさせてくれなかったそうなんです。
だから、むしろ何も出来なくて申し訳ない気持ちになったと言っていました。
きっと、私も妊娠したら、と、そう思っていたのです。
ですが、私が妊娠したことがわかっても、義母は私を小間使いのように扱い続けたのです。
流石に、お腹が大きく目立ってくると、近所の人の目がありますから、他人の前では荷物を持ってくれたり、気を使うような素振りを見せていましたが、家では以前とまったく変わりませんでした。
あまりに酷いので、一度夫が怒ってくれました。
俺の子供を産む大切な体なんだからって、そう言われて、とても嬉しかったです。
実際、義母は私に対する扱いを改めてくれたので、朝もみんなと同じ時間に起きることを許され、私がするのは夕飯作りとその片付けだけと、だいぶ楽にはなりました。
そして、赤ちゃんが産まれてからは、徐々に元の家事に戻されました。
その頃には、すっかり家事に慣れて、赤ちゃんをおんぶしながら、家中の窓を磨いたり、雑巾掛けなんかもしていました。
けれど、二年前のあの大地震の後から、夫は私を避けているような、どこか冷たい態度を見せるようになりました。
帰ってくる時間が日に日に遅くなって、夫婦らしい会話も減り、何より、赤ちゃんのお世話を全くしてくれなくなったのです。
何があったのか訊ねても、わけのわからない話をされるようになって。
挙げ句の果てに、離縁を切り出されたのです。
本当に、理由がわからないのです。
私は何も、悪いことはしていないですし、私の赤ちゃんだってとっても可愛いのに、どうして、離縁されたのか全くわかりません。
もしかして、他に誰か女ができたのかとも思いましたが、そういった感じはまったくしませんでした。
本当に理由がわからなかったのですが、先生から教えていただいた尼寺で、井浦さんという特別な力があるという方を紹介されまして、理由が分かりました。
どうやら私には、悪霊が取り憑いていたそうなのです。
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