家族ごっこ(5)
口裂け女だ。
口裂け女が、僕の家にいる。
お母さんが、口裂け女になってる。
僕のお母さんが……口裂け女になってる!!
「タカちゃん! どこに行くの!?」
パジャマのまま、家を飛び出した僕を、お姉ちゃんが追いかける。
靴も履かずに、裸足のまま坂道を駆け下りる僕は、必死だった。
足の痛みなんてどうでもいい。
逃げなきゃダメだ!!
怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!
「そんな格好で、危ないわよ!」
……あれ、待って。
僕の家の前に、こんな坂道なんてあったっけ?
「タカちゃん! お姉ちゃんを置いていかないで!」
振り向くと、今飛び出した家が坂の上に立っている。
大きな家だ。
でも、僕の家じゃない。
なんで……なんで、僕は、自分の家にいるなんて思ったんだろう?
わからない。
ここはどこなの?
こんな場所は知らない。
こんな田舎の風景を、僕は知らない。
どういうこと?
「タカちゃん!」
お姉ちゃんの後から、お兄ちゃんとお父さんも追いかけてくる。
待って、待って、待って……
誰?
僕のお兄ちゃんと、お父さんって、こんな顔していたっけ?
待って、待って、待って……
そもそも、僕に、お兄ちゃんなんていたっけ?
そうだよ、いないよ。
お兄ちゃんなんていない。
ミーハーでアイドル好きの一番上のお姉ちゃんと、いつも学校をサボってお父さんに怒られる二番目のお姉ちゃんと、いつもおままごとで僕に犬の役をやらせる意地悪な三番目のお姉ちゃんの三人じゃないか。
お兄ちゃんなんていないよ。
僕にはお姉ちゃんだけだ。
じゃぁ、あの人たちは、誰?
口裂け女の仲間?
どうして?
どうして、僕はあの家の子供になっているの?
どうして?
何これ、わからない。
何もわからないまま、僕は何かにつまずいて転んでしまった。
膝と肘から、血が出ている。
砂が傷口に刺さって痛い。
今まで感じなかった、足の裏も痛み出した。
「タカちゃん、一体どうしたの? 怪我までして……」
お姉ちゃんが、僕を起こそうと腕を掴んだ。
近くでよく見たら、このお姉ちゃんも、顔が違う。
誰だよ。
こんな人、知らない。
「放して!! 僕は、僕は、この家の子供じゃ————……」
お兄ちゃんとお父さんより少し遅れて、あの女が顔を出す。
「タカちゃん、昨日から私がお母さんよ」
そう言って、笑った。
【家族ごっこ 了】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます