家族ごっこ(3)
蘇らせたいのが大人なら、同じような年齢と背格好の人を使うこともあるらしい。
でも、その村では霊感のある子供を使った方が、蘇らせやすいっていわれているんだって。
その村で信じられている神様みたいなやつがいて、そいつの力を信用させるために、そういう儀式が行われるんだとか。
井浦くんの話によれば、それが行われるのは僕が住んでいるこの町よりも、もっと田舎の村で、毎年やっているお祭りみたいなものなんだって。
「それじゃぁ、お母さんを蘇らせたかったら、お母さんに似た霊感のある人を連れてくるといいの?」
「そうだな。その方が確実だけど、大人で霊感のある人って探すのがとても難しいんだよ。大人は平気で嘘をつくからね、見えもしないものを見えると言って、金を騙し取る奴もいるからなぁ……本物かどうか見極めるのが大変だし、何より、小さい頃からそういう特別な能力を持って生まれた子供は、危険な目にあいやすいから、大人になる前に死んじゃうか、行方不明になっちゃうんだ」
「それじゃぁ、大人を蘇らせるのは難しいんだね」
「そうだね。でも、その村の山の上に建つ家には、不思議な力があってね」
「不思議な力?」
井浦くんは僕が描いている絵の端の空いているところに、祖父、祖母、父、母、兄……と、書いていく。
「家族をみんな集めると、その家ではずっと幸せでいられるんだって。無病息災で、食べるものにも、寝床にも困らず、老いる事もない。ずっとずっと、幸せな時間が続く」
井浦くんは鉛筆でぐるぐると、なんども自分が書いた文字を囲って、何十にも重なる円を描き続けていた。
僕はその間に口裂け女の絵は描き終えていて、鉛筆を持ったまま、その動きをずっと目で追う。
「家族みんなで、なんの不自由もなく、不幸な事もなく、ずっと幸せでいられるなんて、とっても素晴らしい事だと思わない? 俺はいつも一人だからさ、そういう、普通の幸せがすごく羨ましいんだよね」
「井浦くんには、兄弟はいないの?」
「いないよ。俺はいつも、一人ぼっちなんだ。母さんも、父さんも、ずっと昔に死んじゃったし」
「え? さっき、帰ってくるって——」
もう少し遅い時間になったらって、言ってなかったっけ?
そう言いかけたその瞬間、ガチャリと居間のドアが開いた音がした。
音がした方を見ると、そこには長い髪の女の人。
「く、口裂け女!!」
今、僕が描き終えた口裂け女にそっくりな女の人が立っていた。
僕は怖くて、ローテーブルを踏み越えて井浦くんの方へ瞬時に移動した。
怖い。
助けて。
僕を追いかけて来たの?
井浦くんに隠れるようにしがみついた僕は、震えていた。
食べられる。
あの大きな口で、僕を食べようとしているんだって、怖くて、怖くてたまらなかった。
それなのに
「————ああ、姉さんお帰り」
兄弟も、お父さんもお母さんもいないと言ったその口で、井浦くんはその女の人を姉さんと呼んだ。
兄弟でも、お母さんでもない、姉さんって何?
疑問に思った僕をよそに、その井浦くんのお姉さんは、ニコニコと微笑みながら僕の方へ近づいてくる。
「早かったね」
やっぱり口裂け女に似ている。
笑い方も、公園で見た口裂け女と同じとしか思えない。
口裂け女は無言のまま、ただ、僕の方を見て笑う。
でも、さっきと違う。
口裂け女の口は、普通の、人間のままだった。
大きくない。
首だって、さっきみたいに不自然な人間じゃないみたいな動きはしていなった。
井浦くんのいう通り、この人は、この女の人は、ただ似ているだけで、井浦くんのお姉さんなんだろうか?
「大丈夫だよ、隆彦くん。何も怖がることはない」
井浦くんは優しい声でそう言った。
でも、でも、でも、でも、それなら、これはなんだろう?
怖いのに、どうして、どうして僕は今、ものすごく眠いんだろう。
すぐに視界が暗くなって、声だけがずっと僕の脳内に響いていた。
「大丈夫。何も怖いことはないよ。家族になるんだ、君たちは」
どういう意味か聞きたくても、僕は声が出せなかった。
次に意識を取り戻した時には————
「え……?」
僕は仰向けにされて、両手と両足を縛られ、顔に何か文字のようなものが書かれた紙を貼られていた。
その紙が邪魔で、状況がまったく飲み込めない。
ただわかるのは、お線香の匂いとオレンジ色のぼんやりとした明かり。
それから、ずっと、何を言っているのか聞き取れない、いろんな人の声がした。
多くの人が、僕の近くにいる。
そして、何かをずっと話しているんだ。
でも、日本語なのかどうかわからない。
僕には、何を話しているのか全く聞き取れなかった。
本当に、何が何だかわからなくて、僕は抵抗しようと身をよじった。
でも、縛られているせいか全然うまくいかない。
せめて、この紙だけでも取れたらいいのに。
それに、すぐに肩や足が壁にぶつかるんだ。
寝返りも打てそうにない。
こんな狭い部屋があるだろうか?
もしかして僕は、何か大きな箱の中にでも入っているのかな?
声を出そうにも、口も縛られている。
こういうの、確かサルグツワって言うんだっけ?
多分、火曜サスペンスで見たことがあるような気がする。
そんな風に思っていると、何かを体に振りかけられた。
濡れている感覚はないから、多分、砂とか、塩とかだと思う。
え、待って。
もしかして、僕、食べられる?
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