第2話 俺、世界の真実を知る
悲嘆の涙から一変し喜びのあまり泣きじゃくる部下たちは叩き出した。
そして俺は幽霊ウタコと向かい合っている。
「おい。貴様、はやく成仏しろ」
「残念なことに成仏できないのよね。どうやらあなたの肉体に引きつけられてるみたい」
「どういう意味だ。エロい意味か」
「たしかに顔も体もドストライクだけど……ってそうじゃなくて! 成仏できないし、あなたから離れられないってこと。私の霊体はあなたの肉体に入るはずだったんだから」
「俺に取り憑くのか? やめるんだ。目障りだぞ」
「私に文句つけたってどうにもなんないから。あ、そうだ! 代わりと言ってはなんだけど、いいこと教えてあげる。この世界はゲームなのよ!」
「…………は?」
俺はウタコから長々と話を聞いた。
曰く、この世界はゲームであると。
そして俺、アキレウスはプロローグで名前だけが出る死んだはずのキャラらしい。
ああ、俺を主人公に置かないなんてセンスがなさすぎる。シナリオライターは相当な愚か者だな。
それは余りに突拍子もない話ではあったが筋が通っているところもあり、与太話だと斬って捨てることはできない。
"ゲーム"というのは難解な概念ではあったが、俺の脳細胞は容易に理解した。ようするにごっこ遊びの延長だ。
「だが……ゲームだからなんだと言うのだ? そんなこと俺には関係ない。ゲームでもゲームじゃなくても、俺は俺だ」
「ふふん。そんな調子でいられるのも今のうちだけよ。この『フォンマルクルの滅び』は高難易度死にゲー、それもクソゲー寄りだから。実を言うと私の死因はこのゲームでストレスをためすぎての憤死なのです」
「……なんともしょうもない死に方だな」
「それはともかく、生き延びたかったら私の助言を聞きなさい。このフォンマルクル王国は"魔族"によって滅ぼされるから、遠くへ逃げましょう」
逃げる。逃げるだと?
俺は逃げない。母の腹からこぼれ落ちて以来、逃げたことなどない。
なぜって俺は――天才だから。
「俺は天才だ」
「……だからなに? そのセリフすごくバカっぽいからね」
「俺は天才だ。この王国は俺のものだ。その"魔族"とやらは俺が滅ぼす。この王国が滅びるとしたら――それは俺が滅ぼすからだ。アキレウス大帝国に栄あれ!」
「えぇ? 何言ってるの? 顔はすごくかっこいいのに変人ね」
「俺は天才だ」
「……だからなによ。それだけで全てが伝わると思わないで。――いいかしら」
ウタコは得意げに鼻をふくらませて指を立てる。なんかムカつく顔だ。
「このゲームのクリアまでの平均デス数は千回を超える。私はチュートリアルで百回死んだわ。それくらい難しいの。この世界でセーブなんてものができるとも思えないし、つまりクリアは不可能ってこと」
「俗物が1万回試行してもできないことを、俺はたったの1回で成功させる。なぜならば俺はてん――」
「それはもう分かったから! ……はあ。なら好きにすれば。あなたが死ねば私も成仏できるかもしれないし」
「いいだろう」
この世界がゲームであるかなどどうでもいい。やりたいようにやる。俺は世界の覇王になる男なのだから。
ウタコはふわふわ回るように浮かびながら顎に手をあてて、
「でもここで死ぬはずのアキレウスが生き延びちゃったらシナリオはどうなるのかな? ……まあ私とアキレウスで主人公をそれとなく誘導すればなんとかなるか」
シナリオだと? 主人公だと?
そんなものに縛られてたまるか。
センスなしの無能が書いたシナリオなど俺が作り直してやる。
「おい」
「なに?」
「とりあえず主人公を殺しに行くぞ。俺を差し置いて主役の座に座ろうなど不敬が過ぎる」
「なにバカ言ってるの? 主人公が世界を救うんですけど。主人公を殺したらバッドエンド確定なんですけど」
「俺が主人公になる」
ふと、部屋の扉がバタン!と開いた。
声も掛けずノックもなしに俺の部屋の扉を開けるとは何事か。
そちらに目をやると、立っていたのはうちの制服を着た知らない顔のメイド。
俺は屋敷の使用人全ての顔を記憶しているというのに。
そいつは言った。
「なぜだ…… アキレウス・フォン・アイゼンガルド…… なぜ死んでいない……?」
それは喜びではなく、怒りさえにじませる声音だ。
俺は察した。つまりこいつこそが俺の病の元凶というわけだ。
こんな女に後れを取ったのは一生の不覚。
「ブチ殺してやるぞ、貴様ッ!!!」
ウタコが目をひん剥いて驚きの声を上げる。
「な、なんで…… なんでチュートリアルボスがここにいるわけ!? ああトラウマが蘇ってくる……」
メイド服の女は獰猛に笑った。
「死にかけの病人と奇妙な幽霊…… 二人まとめて食ってやる。天国にも地獄にもいけないと思え!」
「いやああああああ!」
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