第弐幕 煙霧

 煙草休憩が終わり、セダンは勢いを増し始めた雪を振り払うように進むけど、視界には雪だけじゃなく、深い霧まで姿を見せ始めた。それを綾香さんに伝えると、

「そうね。でも大丈夫」

 綾香さんはともかく、京堂さんは……そう思って後部座席へ振り返ろうとした時、

「サクラ先輩は瑠璃島出身っスよね?」

 待ち構えていたかのように愛里が私を出迎えた。

「そうだけど……」

「瑠璃島っていうか、この辺って霧も発生しやすいんスか?」

「わからない。出身だけど住んでいたわけじゃないから」

「そうっスか……」

 正直、瑠璃島のことなんてほとんど知らない。知っているのはお父さんの実家である高神家のことを少しだけだ。末席のお父さんによると、正月には分家も含めた一族が集まり、本家の当主から重苦しくて気まず〜いお言葉があるらしい。だけど、二00一年の一月に一族の多くを巻き込んだ不審火があって、生き残ったのは数名の分家と、お父さんが婿入りした私の家だけだ。その業火で高神家はあっさりと滅亡した。それと……その炎は私の身体に一生消えることのない傷を残した。

 小さく息を吐いた私は、バックミラーに映る自分の右頰に触れた。役者は顔が命なら、私の顔は欠陥品ということになるけど、京堂さんも綾香さんもどう思ってるんだろう。

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