第27話

藤ノ宮侯爵。




彼女は今、そう言わなかっただろうか。




そして、その奥方と……。




「―――っ!?」




仰天した。




口元を押さえる桜子に千鶴子は不思議そうな顔をする。




「いかがしまして?」



「あ、あの……っ」




混乱する桜子の中ですべてが繋がった。




つまり、だ。




桜子の助けた猫は藤ノ宮侯爵の奥方の大切な猫であった、というわけだ。




いや、それは先刻自動車の中で白木から聞いたが、あまりに現実味がなかったというか何というか。




しかし屋敷を見て奥方を見て、ようやく現実だと認識し始める。




華族制度での公侯伯子男の5つの爵位。




その中の第2位に位置する藤ノ宮は名門として名が知られているのだが、そういったことに疎い桜子が知るわけがなく。




千鶴子は動揺する桜子の様子に微笑み、鈴鳴を抱き上げて見せた。




「そんなに警戒しないでくださいな。別に取って食おうなんて考えていませんの。ただ、ローレンシアンを助けていただいたお礼がしたくて。無理にお呼び立てしてしまってごめんなさいね」




嫌味のない上品さで言われ、桜子は辛うじて頷く。




「い、いえ……。あ、あの、別にお礼なんて、そんな大層なことをしたわけではありませんし……」



「あら、わたくしがしたいのよ。よければお話し相手になってくださらない?」




おっとりと無邪気に言われては断る口実など見つかるわけがなく。




桜子は促されるままに椅子に座った。

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