第1-2話 異世界に投げ出され

視界が暗転し体が捻じれる感覚と酷い乗り物の酔いが同時にやってきて思わず目を思いっきり瞑り耐え忍ぶと突然瞼の向こう側が明るくなった気がして目を開けると…。


「オロロロロロォォオオオ!!!! うっぐぅ…」 

盛大にぶちまけた。  


吐しゃ物の吐き出す音と鼻にツーンとする匂いがその場を支配した。


未だ吐き気が収まらないが顔を上げるとそこには見るからに豪華な衣装を着こなすおっさんと、その横に同じく豪華な衣装の子供が俺を見てから隅に行きゲロを吐いていた。


「うっぷ! オロロロロロ!!」


これは完全に俺の貰いゲロなんだろうと思いいたたまれない気分になったが、「こちとら吐きたくて吐いたんじゃねー」と叫びたかった。


再び、吐しゃ物の吐き出す音と二人分の匂いのせいで静寂が続いた…。


吐き気が収まりつつある中状況把握の為左右に首を振った。


正面におっさん、その横に杖をこちらに向けたまま硬直しているじぃさん、その後ろの方にゲロった子供、左右には剣に手を乗せいつでも抜ける体制の騎士3人づつ。

騎士の格好をした人たちは面をしているため表情がわからないが、おそらく鼻を抑えたいんだろうなと暢気にそんなことを考えるのだった。


そのうち1人の騎士が

「王子!大丈夫ですかぁ!」

っと声を掛けながら王子の下に駆け寄り背中をさすりだした。


「騎士長っう! 問題ない。下がれ」

まだよくなさそうであるが子供が声を発するとその場の皆が動き出した。


おそらく国王だろうおっさんはしかめっ面のまま鼻に手を当てているが、下がれと言われた騎士長はメイド達を呼びつけゲロの処理を指示した。

その間誰も言葉を発さないため、今の状況はあの黒猫のいう通り異世界にぶっ飛ばされたのだろう…。


メイド達による一時的に清掃のおかげで汚れと匂いはだいぶ緩和され国王が手を下ろし鼻で呼吸し始めた。


「んんっ!ぅんんっ! 勇者よ!!よくぞ我らの召喚に応じてくれた!!」

若干不自然な話始めではあったが国王が話し出す


「我はこの国ハイデルの国王である!」


(やっぱり国王なのか… それにしても国名がハイデルか…  吐いてる? いや今はそんな馬鹿なこと考えている場合ではないな)


「此度勇者召喚の儀を行ったのは近々この国の隣の大森林で魔の王が誕生すると信託を受け、その王討伐の為召喚術式を行ったのだが…」

国王とその他ほかが俺の足元を注視している。


(うん。 片足なしで車椅子に乗っていればそうなるよねぇー)


「そなたの片足がないのは見ればわかるのだが、その車輪のついた椅子はなんじゃ?


「これは車椅子といい体の不自由なものが自力で動くための物です」

そう言って前後に少し動いてみた。


「なんじゃそれぃは!?わしにも貸してみぃ!!」

国王よりも隣のじぃさんがものすごく興味が湧いたのか俺の近くまでドスドスとやって来てひったくるように奪おうとするが離れることがない。


いきなり奪おうとしてくるとは思はず車椅子を抑えるが全くと言って振り落とされる気配がない。


「じぃ!よさぬか!」

国王の一言でじぃさんの動きが止まりおずおずと元居た立ち位置まで戻っていく。


「じぃがすまなかったな。」

まさか国王が謝るとは思わず黙ってしまうと続けて

「どのみちその体なのだから討伐を頼むわけにもいかんし、元居たであろう場所に返す方法もない。」


(あれ?この国王割といい人なのでは!?)

国王らしくない言動でそんなことを思う。


「我らの勝手で呼び出してすまぬと思うがこの世界で暮らしてもらうしかない。 謝罪を含めた当面の資金とこの国の平民の身分を授ける。後のことは、そこの騎士に付いてしてもらえ! 以上だ!」

もう終わりと言う様に騎士を残して皆退出して行った。


(あ、返答の余地なく捨てられた…)

その場には指示された騎士と二人残された


「私は近衛騎士のマルセルと申す。勇者殿こちらに。」


「私は…」

名乗る暇を与えず騎士様は歩き始めた。

「あっ!っちょ!」

置いて行かれまいとその後を必死に追いかける。


途中階段があったがどこからメイド達が現れ車いすごと持ち上げられた。


城門付近に到着すると騎士様は

「勇者殿こちらを…。 」

巾着袋とカードと何かの手紙を渡してきた。

「当面の資金と身分証だ。それと私からの選別だ。冒険者ギルドに渡せば何とかなるずだ…」

再び足元に視線を送り

「冒険者には慣れぬだろうが資格証はくれるだろう」

それだけを言い騎士様は城に向かい歩き出す。


それを眺めていると一度振り返り憐みの視線を送ってからまた歩き出していった。


「くそがっ!」

車椅子生活中時たまその視線を送ってくるだけの奴がいたのを思い出し悪態をつく。


イライラした気持ちのまま

城門を潜るとそこは”異世界”であった。

目に入る景色は、生前見たこともない光景ばかり。

馬車をはじめとし、色とりどりの髪の色の男女。

海外にも行ったことのない俺にとって街並みすべてが新鮮で心躍った。

先ほどまで異世界に来た不安や侮蔑の視線なんかを一瞬にして忘れ見入ってしまった。


(おっと!このままではいかんな)

最後に言われた冒険者ギルドって場所にまずは行ってみねば。


そう思って車椅子で一歩踏み出した。




~~~~~~~~~




「父上よろしかったのですか?」

王子は父親の国王に尋ねた。


「まったく!まさかあの様な輩が召喚されてくるなどわかるわけなかろうが!!クソっ!」

勇者と話していた時と異なり国王は酷く荒れていた。


それもそのはず

「まさか初代国王様から受け継がれてきた伝説の召喚魔方陣からあの様な人が召喚されるとはおもいませんでした。」


そこへじぃが

「その召喚人も一度っきりだったとは… 無駄でしか無かったのじゃ」


「でも、あの乗り物は珍しいものだったのではないのですか??」

王子も密かにあの乗り物に興味があった。


「そうですじゃ!そうですじゃ! あ奴がダメでもせめてこの世界に無い物で…」

興奮して暴走していたジィはまた興奮しだした。


「所詮は椅子に車輪が付いただけの物だろうが!騒ぐな!」

イライラしている国王は興奮しだしたジィにさらにイラつき黙らさせた。


王子とジィは珍しいものに惹かれ未練がましくしていたが国王のひと睨みでシュンとするのであった。




まさか召喚者ではなく車椅子の方が伝説のアイテムであったと国王は露にも思わず魔の王討伐できたチャンスを失うのであった。





次回 冒険者ギルドへ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年9月28日 07:00

妄想日記 @koinu1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る