第3-1話 秘密結社



この町が出来てからある由緒正しい宿屋だ。そんな宿屋の長男として生まれ、物事がつく頃には宿の手伝いをさせられながら育った。

明日は教会での成人の儀があり、街中はその準備なんかで騒がしい。


「明日はお前にとって大事な一日になある今日は早めに寝るんだぞ!」

普段は怠け者の親父が珍しく夕食後に話しかけてきた。


「うん。わかってるよ!」


「それと教会での成人の儀の後少し寄る所があるからお前もついてこい。」


「寄る所?どこに行くんだ?」


「それはー まっ、ついてから説明する」


「え、なんだよ!今説明してもいいじゃん!」


「それより今日はもう寝ろ」


「あーい おやすみぃー」

結局何だったんだと思いながらも明日へのワクワクで気にせず布団の中へ入るのだった。


・・・


成人の儀ののち親父に連れられ街中を歩く。


「成人おめでとう。 これでお前も一端の大人の仲間入りだ。」

今朝家を出てからいつもと様子の違う親父の背を追いかけ騒がしい街中を歩く。


「ありがとう。 大人の仲間入りって言われても実感ねぇけどな。」

それよりもやたらビシッとした服装の親父が気になってしょうがない。

いつもなら髪はボサボサでヨレヨレの服しか着てない姿しか知らなかったのでより一層違和感でしかなかった。


「着いたぞココだ」

目的の場所は町の中心地よりやや外側のなんてこともない住宅地だった。


「ここが? こんなとこに連れてきたかったのか?」


親父はそのまま無言のまま建物に入り、ズカズカと部屋の中を進む。


「おい、親父!いいのかよ勝手に入って!」


「…」

親父は何も言わず早く来るようにと手振りで急がしてきた。


ある扉の前につき親父がその扉を開けると下へと続く階段が現れた。

階段は薄暗く足元がやっと見えるかどうかの明るさしかなかった。


「なぁー 親父、ここって何なんだ?」

若干の怖さがあり小声で話しかけた。


「ここって言うより、これから何するのかも方がきになるんじゃねーか?」

親父はいつも通りなんてこともなさそうに答え、そのまま階段を降り始めた。


確かに気にはなっていたことではあった。だがそれを聞く前に階段の下についてしまって返答できなかった。


そこは割と広く大勢の大人と子供の姿があり、はっきりと顔が見えるほど明るかった。

普段の生活でもここまで明るく火を灯すことがなく一層場違い感があった。


「親父… ここって…」

すると人だかりの中にいくつか知り合いの顔があった。それも一人二人の数ではなく近所の友達や八百屋のおっさんと両手の指で数えられるほどであった。


住宅地のさらに地下室でこんなにも大勢がいることに自然と不安になり無意識のうちの親父の袖を掴んでいた。


「そろそろ始まるな。」

なにやらポケットから不思議な模様の入った指輪を取り出し、それを嵌めながら親父は静かにつぶやいた。


周りを見ると親父と同様に指輪を填め始める大人たち。その中に混じって自分より年上の近所の兄ちゃんまでもが指輪をしていた。

改めて周りを見渡すとあることに気が付いた、ここにいるのは男しかいなかった。それも自分よりも年上しか居らず、女性や女、子供が一人も見当たらないのであった。


「皆よく集まった!! 今日はまた新たな同胞を迎えることができ喜ばしい限りだ!!」


ここへ降りてきた階段付近に居た為その言葉が発せられるまで気が付かなったが奥には大きな祭壇と立派な石で出来た台の上に分厚い本が開かれて置いてあった。

その本は今まで見たこともない様は装飾がされ目を奪われるそんな一冊だった。


「ここへ初めて連れてこられた者には何のことか理解できていないだろうが、ひとまずはこの町の集まりの一つとでも思ってくれればよい。我々の活動、信念に共感し、共に先へとっと思うことができるなら正式に我らの家族として迎えよう」

そう話終えた男はこの場の誰よりも立派な服装をしていた。黒の生地に幾重もの金色の刺繍、腰から下を隠すかのようなエプロンに親父が指に嵌めた指輪の紋章のより豪華なシンボルが描かれている。まるで話に聞くような王侯貴族なのではと思わせる姿だ。


それからしばらく立派な姿の男が話続けるが、その場の雰囲気にのまれほとんど話を聞かず惚けていた。


一通りの話が終わり周りの皆がワイワイと談笑し始めたころようやく、この状況が何なのか親父に聞くことにした。


「はっ! なっ、なー 親父! 一体ここは何なんだ??」

途中から話を聞かず惚けていたため余計に現状の理解が出来ず親父に聞くしかなかった。


「おいおい、話聞いてなかったってのかい?」


「…」

若干呆れ交じりの問いかけに思わず黙り込むしかできなかった。


「まーいい 今は近所の集まりとでも思っておけ! ただしここにいるやつ以外に外で話をするなよ!!」

いつもの怠け者の親父から発せられたとは思えぬ圧を感じうなずくしかできなかった。

「それと家に帰ってもかぁーちゃんにも言うなよ! もしここでのことが外に漏れたら…」

一瞬顔が強張る様に見えたが多分気のせいだろう。


「ところで俺と同じように近所の奴らも居るけど親父みたいな指輪している奴として無い奴の違いってあんの?」

今日成人の儀をした子供たちは俺と同じようなもんと推測できたが年上の人たちにはちらほらと指輪をしていない人もいた。


「あー まぁー すぐに分かる事だが指輪をして無い奴はまだここの社交クラブの仲間じゃねーってことだ」


「社交クラブ?」


「あー 先ほど前のほうで豪華な服の方が話されてただろ?あのお方の話聞いていなかったのか?」


「えーっと、家族がなんとかってやつ?」

少し話し方が変わったことに気が付いていない。


「まー今はそれでいい。 っとそろそろお開きだな。帰るぞ」

そう言いながら指輪を外し胸ポケットにしまい階段の方へ歩き出し始める親父を追った。


また薄暗い階段を上るのかと思っていると、ふと他の人が別の階段を上り始めるのが見えた。てっきりここへの出入口は降りてきた階段だけかと思ったがいくつもあるように見えた。そのことを親父に聞くも「いいから行くぞ」と素っ気無い態度で返されたため続いて階段を上っていくしかなかった。

階段を上ると知らないおじいさんが部屋の中でくつろいでいたが、こちらを一切見ることはなかった。まるで見えていないかのようにも思えた。


帰り道の親父は特に何か喋るでもなく、いつの間にか普段の怠けた顔のボサボサ頭に戻っていた。


家の前につき玄関を開ける

「「ただいまー」」


「おかえりー!遅かったわね」

夕食の準備をしていたのだろう、奥からドタドタと音立てながらかぁーちゃんがやってきた。

「今日は疲れたでしょうし晩御飯食べたら宿の手伝いせずまったりして寝な!」

今日は珍しく宿に泊まっているお客さんも少なく手伝いは不要だったらしい。


「ありがとう!なんだか疲れちゃったからそうする」

一瞬親父の顔を伺うもだらけた顔に変化はなかった。


食後宿屋とは別の自分に割り当てられている部屋のベットの上で今日の出来事を考えていた。

本来であれば成人の儀だけのはずが、社交クラブ?なる集まりに参加させられ…。同い年の友人達も集められていたような…。でもあの場にいない子も…。

あれやこれやと思い考えているうちに眠りについた。



次回 社交クラブ入会

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