新入生歓迎球技大会は歓迎していない

「おい、体育館に向かえ。遅刻するなよ」


 正門前で大きな声を言う先生、立川真一先生。見た目は若い、若いのか、筋肉がすごい。喧嘩したらすぐに地獄に行けるだろう。そう、思いながら俺は走って体育館に向かう。


 今日は新入生歓迎球技大会。歓迎ね、どうせ先輩たちにボコボコにされて終わりだろう。実際に体格差がありすぎる。本当に一年早く生まれただけ?と思うほどだ。


 校長先生の話が長いのは恒例行事だろう。あまりの長さにみんな集中力が無くなってきてる。なげーなと思いつつ周りを見渡す。


「ところでさ君、私のこと見すぎじゃない?」


 え、どちら様ですか?俺は周りを見渡していただけなのにいつの間にか話を掛けられていた。


「あの、俺ですか?」


「あなた、以外誰がいるの」


「多分勘違いですよ。俺周り見渡してただけなんで」


「あのね、君ってもしかして無意識に私を見てたってことなの、何それ怖い」


「いやいや、被害妄想です」


「助けてくださいー、この人が私のことを変な人って」


 えー言ってないそんなこと。絶対、髪に誓って。髪にな。


周りは校長先生の話より、俺たちに夢中になっていた。よしてくれよ。


「おい、度が過ぎてるんじゃないか」


 俺は強く言う。怒りよりも呆れが勝つのは初めてだろう。


しかし、周りの声はどこか違っていた。また、あの子かよ。そんな声が聞こえた。


 とりあえずその場は何とか収まらなかった。その後先生に呼び出された。


「君たちは、何をしたかわかっているか」


 低い声がより恐怖を与える。てか、俺がこの場にいるのおかしくね。ちなみに俺は被害者なんだが。


「俺は悪くないと思うんですけど、」


「この期に及んでまだ、そんなことを言ってるのか」


 大きい声で言われた。あのーそんな切れることある。これは、その、怖いよ


 来週の土曜日に草むしりに来るように言われた。もし来なかったらもっと酷いことが起きるぞ。脅迫まがいのことを言っていた。もしかしたら冗談かもしれない。いや、冗談であってくれ。


 最初の試合が始まる時間になっていた。急がないと間に合わないなと思っていたが、気になることがある。


「なあ、バレーの試合行かないのか?遅れるぞ」


「、、、、、」


 沈黙ね、それか無視かの二択だった。


「何かあったのか」


「、、、」


「なあ、何か言わないとわからないぞ」


「行かないよ、絶対」


「そっか」


 その顔は何かに怯えていた。俺はヒーロか何かかと思った。こうも悩んでる人が俺に吸い付いてくる。


 「じゃ、買ってくる」


 そう言い俺はその場を離れた。


 5分後に戻るとビックリにしていた。


「なんでいるのよ」


 えーちゃんと買ってくるって言ったのに。


はいよ、と言い俺は飲み物を渡す。


「何が好みか知らなかったから、嫌いな飲み物だったらごめん」


「あんたってバカなの」


「馬鹿ね、多分違うよ。だって今にも泣きそうな人を置いていけると思うか」


「なにそれ、本当に馬鹿じゃん」


「馬鹿でいいよ、そんあバカに付き合ってる君も馬鹿だけどね」


「馬鹿じゃない、私は」


「私はって、俺のこと馬鹿な人になってるやん」


「そうだよ、君は馬鹿だ、バーカ」


 さっきとは裏腹に変わっていた。あの時の君はどこに行ったんだ。


「私の名前は、沢城カスミだよ」


「カスミね、良い名前だね。」


「セクハラですか?」


「今はそんな時代なんか。俺の名前は新庄誠。よろしくな」


「よろしくね、お馬鹿さん」


 カスミってもしかして性格悪い?そう思った


「てか、私はもう大丈夫だよ。行ってきなよ」


「行きたいところなんだが、俺は新入生歓迎球技大会が嫌いでね。だって歓迎どころがボコボコにしてるんだよ。そこが嫌い」


「なにそれ」


「まあ、ここから眺める景色もいいもんじゃないか」


「あーそれもセクハラですよ」


 「このっタイミングで言うことそれ」


「え、じゃあなんて言えばいいですか?お馬鹿さん」


「誠ね、まーこーと。いや、この時はそうだねでいいだろ」


「じゃ、誠がここにいるなら私もここにいるよ」


「え、いつの間に立場が逆転」


 他の生徒が頑張る中俺たちは何してるんだろうと。まあ、ここから見える景色は忘れることはないだろう。


「なあ、悩みってあるか?」


「悩みね、うーん、悩みならあるよ、私の時間が誠に使われていることと、誠が友達いなそうで心配とか」


 いやいや、会って一時間程度なのにこんな言われることある?


「言い過ぎでしょ。」


「冗談だよ、冗談」


「冗談ねよかった。よかったてなると思うのかい、カスミさん」


「それ、セクハラですよ」


 俺は今日だけでセクハラを3回もしたらしい。


景色をみながら、炭酸をグイって飲み上げる。


「ねえ、誠。た、助けて」


 なんともいえない表情に、苦しそうなカスミだった。


「任せろ」


 ほらな、やっぱり新入生歓迎球技大会は歓迎をしていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る