にぎやかな引きこもり

シオランはネガティブなのか情熱的なのかよくわからない奴だった。

あれから、この壊れた扇風機を土手から持ち帰ったのだった。両親にはバレていない。真夜中だったこともあり、人とすれ違うこともそんなになかった。


「しかし、俺らみたいなのと話せる奴がいるなんてねぇ。正直、驚いたわぁ」

「けどあんた壊れてるんだねぇ、本当にただのゴミじゃん」


カミュは率直に言う。けれどシオランは別に怒る素振りを見せない。壊れていようがいまいが、今ここに俺はいるとでも言いたげに、彼は口を開いた。


「こうしてあんたらと話せるのも何かの縁やなぁ。見る限りあんさんも、引きこもりやろ?これからいろいろ話せるさかい、よろしゅうな」


カミュとシオランは、ざわざわと夜中だというのに話をしている。カミュもゴミとはいえ家電の仲間が出来て嬉しかったようだ。私はというと、シオランを担いで来た疲労が溜まっていたのか、ベットに入ると眠気が襲ってきた。しかし、カミュ達の会話がうるさい。けれど、止めはしなかった。二人は今までの家電人生について話している。製造された時、店舗に出た時、買われた時、そしてシオランは捨てられた時のことを話していた。捨てられるというのはどんな気持ちなんだろう。シオランは、ネガティブに物事を言う癖がありそうだ、しかし、その声は明るい。まるで、自分の悲観した世界を楽しんでいるようだった。声を聴く。二人の声を。どんどんとまどろむ世界の中を、ただ漂う。寝ているのか、起きているのか。もはや今自分はなんなのかわからない状況にいる。そうして、あっという間に朝が来たのだった。カミュとシオランは、一夜中話し込んでいた。


「そういえばあんさん、自殺しようとしてたやん?なんでやめたん?」


また身体が動かず、横になっていた。昨夜から、ずっと。シオランはそんな私にむかって、不思議そうにそういった。


「なんでって、シオランの声が聞こえたから」

「なら尚更おかしいで、うちは『自殺しろ!』って言ったんやで?」

「まぁ、そうなんだけどさ」


それを聞いてカミュは呆れた声をあげる。


「あんた、死のうとしてたの?全く、自殺はこの世が糞って認める行為だよ」

「いやいや、いざとなったら死ねるってのは、実に自由なもんやで。死にたかったんならさっさと死ねばよかったのに」


動かない家電達は、決して悪い奴らではなかったが、死に対しては実に奔放的だった。カミュは一応自殺を止めてくれいるようだが、それは彼自身の思想の元に止めているだけで、私がいようがいまいがどうでもいい感じが否めない。逆にシオランは、自殺に対して実に好意的だ。河原で「死ね死ねー!」と叫ぶのはいかがなものかとおもったが、とてもポジティブに自殺のことを取り上げている。


自殺。


それをした後の世界は、一体どうなるんだろう。

それをした後の世界は、楽な世界なんだろうか。


ぼーっとした頭の中で、死の世界を想像する。もう悩まくていい。苦しまなくていい。


「ねえシオラン」

「なんや?」

「僕がもし死んだら、君はどうする?」

「はぁ?なんもあらへんよ。おつかれさーんよく死ねましたーで終わりや」


シオランの言葉を聞いたあと、沈黙が続いた。その沈黙に耐え切れなくなったシオランは「おーい」と小声で言う。私は、目頭が熱くなり、涙がゆっくりと頬を伝った。それをカミュとシオランは見つけると、ふたりで「わっ!」と驚いてみせる。


「え、なに、どうしたの」


カミュは慌てている。


「ううん、いやね。今まで死ぬなっていう人はたくさんいたけど、死んでいいって言ってくれたのはシオランが初めてだったからさ。その、うれしくて」

「はぁ、あんさん、死ねって言われて嬉しいんかい、不思議なやっちゃなぁ」


シオランは呆れたようにそういう。

カミュも、呆れたようだったが、すこしほっとしたようだった。

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かでんの声が聞こえる。 暮石 引 @kureishi_in

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