第41話

本日は無理をお願いして、神殿への滞在期間中にも関わらず王城へと参上した。


アーサー様には事前にお手紙で、面会の約束をお願いしている。


はぁ、久々だわ


まさか自分から進んで来る日が訪れるなんて、思いもしなかった。



久々にアンとエレナに会えたのは嬉しいけれど。




それも束の間の喜び。


室内へ侍女の入室許可は、受け入れてもらえない。


「久しぶりだな、マリーベル」


室内で待機していると、アーサーが入室してくる。


相変わらず、眉間に皺を寄せている。


その顔を見た瞬間、身体が硬直する。




氷のような空気が張り詰めていた。



「それで? マリーベル、お前の方から連絡など珍しいこともあるものだな。


ところで……何故なんの断りもなく神殿などへ行った?」


アーサー様は食い入るように見つめてくる。


開口一番の問いが、神殿のこと?


やっぱり、伝えておくべきだったのでしょうか……


「ち、父に、連絡を…お願いしましたが……」


こちらを凝視するアーサー様の視線が痛い。



ダメだわ…やっぱり怖い



「私は、マリーベルの口からなぜ連絡がなかったのかと聞いている。

神殿など、お前が足を入れる場所ではない!

マリーベルは、私の側で━━」


「そ、そうやって許可してくださらないと思ったからです! 神殿は、神殿に勤めている方達は素晴らしい方達ですわ」


神殿を遠ざけようとすることに対して、無性に嫌な気持ちになった。


アーサー様の発言を思わず遮るほどに。



マリーベルが自分の発言を遮ったことに対して、アーサーは虚を突かれる。


「━━素晴らしいだと?(ニコライなのか……)」


ドンッといつもの如くテーブルを叩くアーサー。



「ヒィッ」


「アーサー様、テ、テーブルを叩くのはおやめくださいませ」


その怯えた様子を見て、アーサーは言葉を続ける


「マリーベル、お前は、そのままでいい!


そうやって……怯えた様子が(かわいい)……


そんなに、神殿に行きたかったのか?


なぜ?」



「ア、アーサー様、おっしゃったではないですか。


か、感謝するように、と。神殿で過ごすうちに、


私は、今までの自分の生き方を反省しました。


皆様に感謝する気持ちが芽生えました。


誰かの役に立ちたい、と思える思いやりの気持ちも持ちました。



愛情は……、まだ、よく、分かりませんけれどっ」



「もうその件は良い」


「え?」


「はぁ。最後まで言わないと分からないのか。以前私が言った事だ。もうその件は忘れろ‼︎ そんな事よりも━━」


「どう言うことでしょうか」


少しは認めてくださるかと、一瞬でも思った自分が愚かだった。


結局、アーサー様の言葉に振り回されただけ。



努力したことが、一瞬でなかったことにされた気がして、またも言葉を遮る。


こんな風にはっきりと自分の気持ちを伝えるのは、初めてだ。


「私は、自分の噂を払拭するために神殿へ赴きました。

 そこでは、噂など関係なく接してくださる方もいて。


ニコライ様とおっしゃるのですけれど、その方より色々と学ばせていただきまして━━」



「ニコライとはどんな関係だ?」


今度はアーサーがマリーベルの話を遮る。


「え? 二、ニコライ様は、尊敬できる方です。

物覚えの悪い私にも、優しく丁寧に教えてくださいます。

とてもお世話になっている方です。」


「世話に? 随分と慕っているような口ぶりだな?

お前は優しくされると、誰にでも靡くのか?


それとも、ニコライに口説かれでもしたのか?神殿勤めが聞いて呆れるな」



「く、口説かれたりしておりません‼︎」



いくらアーサー様でも、ニコライ様のことを悪く言うのは許せないわ。


私はいつも怯えてばかりだった。


だって怖くて、何も言えなかったから。




でも、このまま何も言わないなんてできない。



ニコライ様は、私なんかとは違う。


とても素晴らしい方だから。


こんな誤解をされたままなのは耐えられない。


マリーベルは、意を決してアーサーを真っ直ぐに向かいあう。



いつもなら椅子の背に寄りかかるくらいに怯えるマリーベルなのに、毅然とした姿に戸惑うアーサー。


「どうした?マリーベル」


「━━てください」



「ん?なんと言った?」


「アーサー様!取り消してください!」


マリーベルは勢いよく、はっきりと言葉に出す。


「アーサー様、私のことは何と言われようと構いません。


ですが、ニコライ様のことを、それも本人のいないところで、貶めるような発言はお控えくださいませ」


マリーベルは頭に血が昇っていて、まるで別人のように言葉を紡ぐ。


「アーサー様、おっしゃいましたよね?

せめて普通になれと。


私は、変わろうと、努力しようとしているのです。

時間をかけても無理かもしれません。


それでも、自分自身を変えたいとそう思えるようになったのは、ニコライ様に出会えたからです。


ニコライさまは、決して私を口説くような不誠実な方ではありません。素晴らしい方です。


そんなニコライ様の妹のミシェル様も素敵な方です。


なので、どうか、アーサー様、もう苦しまないでくださいませ。


いつも眉間に皺を寄せていらっしゃるのは、私と会うのがお嫌だからでしょう?


父から何か言われたのでしょうけれど、私が何とかいたします。


ご自分の気持ちに正直になってくださいませ。





私は、お二人のお邪魔になりたくはないのです!


本当の悪女には、なりたくありません。



何度も申し上げていますように、この婚約のお話しは辞退させてくださいませ。



私は、いつでもアーサー様の味方です。


アーサー様、どうかミシェル様とお幸せに。



し、失礼致します。


き、今日の数々のご無礼はどうかご容赦くださいませ。もしも気が収まらないようでしたら、責任は家ではなく、どうか私個人に留めてくださいませ」


急に我に返ったマリーベルは、早急に退室した方がいいと判断する。


礼儀など無視して、一目散に駆け出した。



「待て、待て、待て‼︎ マリーベル‼︎

ちょ、どう言う意味だ?」



アーサー様の悲痛な呼び止める声が響く。


カッコつけて言い切ったものの、お咎めを受ける覚悟がまだ出来ていない。


今日は、このまま見逃してくださいませっ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る