第36話

ニコライ様が、ご自分に対する噂を気にされているのでしたら、悪女と噂されている私はどうなりますの?


私の噂をご存知でしょう?


ふふふ、ニコライ様、実は今回神殿へ滞在することを決めたのは、とても浅はかな考えでしたの。



ある方に人並みになれ、と言われまして、自分の噂を払拭しようとこちらに参りましたの。   


ニコライ様は、私のことを噂と違うと言ってくださいましたわ。 私自身を見てくださり、耳を傾けてくださいましたわ。



ここでの経験は、私にとって初めてのことばかりで、とても充実しております。


それは、ニコライ様のおかげですわ。


ニコライ様には、感謝しかありません。

お優しい方です。



ニコライ様がもし、誰かに何か言われたとしたら、私が黙っておりませんわ!


こんな、私では、頼りないでしょうけれど……」


って、私ったら、勢いよくとんでもない発言を……。


思わず手を包むように握ってしまったけれど、

ど、ど、どうしたらいいのでしょう?


い、い、いつ離せばいいのでしょう、


何かおっしゃってくださいニコライ様。


ニコライ様は、ただ黙って静かに座っていた。


ドク ドク ドク と自分の心臓の音が聞こえる。  


手を、手を、離しましょう。


マリーベルは、添えていた手を離そうと動かす。



「⁉︎」


すると、マリーベルの手を今度はニコライが握りしめる。



その手の温もりが、嫌ではなかった。




私達は、目を見合わせると、手を繋いだまま、軽く微笑み合う。


「マリーベル様、あなたにお話しして、なんだか気分がすっきりしました。


これで、心置きなく自分の信念を貫けそうです。」


ニコライ様は先程とは違い、とても晴れやかな表情をしていた。


「マリーベル様。私も、あなたが誰かに悩まされるようなことがありましたら、黙っておりません。 例え相手が誰であろうとも。

私が、必ず、あなたを必ずお守りいたします。」



私に真摯に向き合ってくださるニコライ様。


真っ直ぐに見つめてくるその瞳には、とても温かい感情がこもっていた。


その瞳に見つめられると、落ち着かなくなる。


胸がこんなにざわつくのはどうして?


ニコライ様の瞳の中に、自分の姿が写っている。


たったそれだけのことなのに、なんだか嬉しくなる。このままずっと、私を見ていてほしい。


この気持ちは、何なのかしら。


「さぁ、難しい話はこれぐらいにして、ミシェルの元へ行きましょう。

ミシェルも、そろそろ文句を言いはじめる頃でしょう。」


ニコライとマリーベルは、手を繋いだまま立ち上がる。


そうして、手を繋いだまま一緒に歩きだした。


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