第21話

周囲に控えている者達が、即座に駆け寄ってくる。

火傷でもしていたら大変だ。まぁ、そんなことがないことを私は知っているが。


ジャクリーン嬢に、タオルを渡すよう指示をだす。


「まぁ、私としたことが。

うっかり、手が滑ってしまって。

アーサー様、ドレスが濡れてしまいましたわ。

こんな状態では楽しめませんわ。

どこかで着替えたいので、ご一緒に部屋まで案内してくださいませんか?」


「アーサーさま、控え室までご案内されますか?」


側仕えのローガンが問いかける。


「いや、その必要はない」


私はジャクリーン嬢に向かい、別れの挨拶を交わす


「ジャクリーン嬢、確かにこんな状態では楽しめませんね。私としても、こんな出来事があった後に引き留めるのは偲びない。今日はこれで失礼しよう」


ローガンに、ジャクリーン嬢を馬車まで案内するように指示をだす。



「え?そんな! アーサーさま、やっぱり大丈夫ですわ。あのお待ちになって!」


ジャクリーン嬢は、私を引き止めようと近づいてきた。


はあ、仕方ない


「ジャクリーン嬢、流行に敏感なあなたをこのままにしておくのは心が痛い。どうか完璧な装いでまたの機会に。」


あくまで紳士的な振る舞いに見えるように、ジャクリーン嬢を見つめる。


私の顔を見て、急にしおらしくなるジャックリーン嬢。


この貼り付けた笑顔に気づかないのか。

明らかに嘘くさい微笑みなのに。


まぁ、彼女程度に気づかれるようなら、王族など務まらないがな。




「アーサー様が、そこまでおっしゃるのなら……失礼しますわ」


私を、引き留めようと伸ばしかけた手を、今度はゆっくりと手の甲を見せる状態で私へと差し出す。



何も気づかないふりをして、言葉だけで挨拶を交わして、その場を立ち去る。


例え挨拶だとしても、彼女の手に触れるなどごめんだ。


そろそろ立ち去ったか。


振り向いて、ジャックリーン嬢の後ろ姿を観察する。



不貞腐れたジャクリーン嬢は、こんなはずじゃないわ、と周囲に八つ当たりしながら去って行った。

 

やはりな


ジャクリーン嬢が、何か仕掛けてくるのは分かりきっていた。



わざと紅茶をこぼして、室内で2人きりになりたかったのだろうが。



既成事実でも作ろうと思ったか……詰めが甘いな




はぁ、次はレイチェル嬢か。


「皆、すまない。すぐに片付けて新しい物を用意してくれ」



私はまた先程の席へと腰掛ける。



 

この場所からは、庭園の入り口までよく見える。




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