第18話
なぜか、逞しい体に抱きしめられているような感じがする。
いやだわ、そんな経験もないのに。妄想ばかりしてどうしたのかしら。
皆さんの前でとんだ醜態を晒してしまった。
目を開けるのが恥ずかしい。
いっそのこと、このまま気を失ったふりをしようかしら。
あざとい考えがよぎったものの、現実を受け入れるべく、おそるおそる目を開ける。
「!」
「マリーベルさま、大丈夫ですか?」
眼前には心配そうに覗き込むニコライ様の顔。
近い、近い、近いですっ
私はニコライ様に支えられていた。
どうして気づいたのだろう?
私はニコライ様の後ろにいたのに。
あまりに突然のことで、
恥ずかしくて体温が急上昇する。
「マリーベルさま、お顔が赤いですね、熱でもおありなのではないですか? 部屋までお運びします。」
そう言うとニコライは、マリーベルを横抱きにする。
「あの、だ、だ、だ、大丈夫です!」
いったいどういう状況なのか、異性と密着した状態に戸惑い心臓がバクバクする。
私は、とにかく下ろしてくださいと懇願する。
「大丈夫とは思えません。心配なので。
ということで、ビル殿、話は後ほど応接室で。」
ニコライは、マリーベルを抱えたまま颯爽と歩き出した。
「ひぃ」
恥ずかしくて思わず変な声が漏れる。
下ろしてもらうことを諦めて、両手で赤くなった顔を隠すように覆っていた。
「ニコライ殿!マリーベル様にそのように触れてはなりません!我々がお部屋までお連れ致します。その方は━━」
「私がこのままお連れした方が早い」
ビルの言葉を遮るように、振り向いてニコライは射抜くような視線を向けた。
一瞬怯んだビルをその場に残して、
ニコライはマリーベルを連れ去る。
「まぁ、マリーベルさまが抵抗されていないようなので、今回は目を瞑りましょう。こんな事が知られたら、我々の首が飛ぶ。」
不穏な言葉が聞こえて、心配になる。
ニコライさまは大丈夫かしら…
手の隙間からそっと様子を窺う。
「ふふ、マリーベルさま、こっそり見られるのは恥ずかしいですね。どうか、私に寄りかかってください」
ニコライはマリーベルにしか聞こえないように、小声で話しかけた。
ただでさえ距離が近いのに、ニコライ様の息遣いまで感じられる。
耳がっ、耳元で、囁かれてはっ
恥ずかしさから首をぶんぶん横に振って、両手に顔を埋める。
それから部屋に着くまで、ずっと目を閉じていた。
あわあわするマリーベルの様子を見て、くすりとニコライは笑う。
なんだか悪い気はしない。
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