最終話

 *


 これが後に起こる第5次世界大戦の発端となる出来事であることは、誰も知らない。


 大戦の傷跡は大きく、望み通り、地球人はお互いに戦い合い――結果滅びることになる。


 月面や火星に移住した者達もいたけれど、少なくとも地球という惑星には、生物はいなくなることになった。


 彼らの行動が原因なのか、はたまた必然としてそうなったのかは、分からない。


 ニビルとクオリアのその後は、どこにも語られず、誰にも伝わらなかった。


 どこかでひっそりと暮らしているのか。


 天寿を全うしたのか。


 幸せに過ごしたのか。


 あるいは戦争に巻き込まれて野垂れ死んだのかは、定かではない。


 どちらにせよ。敵の宇宙人と、裏切り者。国際指名手犯である。発見された時点で死罪が確定している。


 何にもなれなかった男が、どうしようもない男になった。


 ただそれだけの物語である。


 ただ――それでも。


 二人は、独りぼっちではなかった。


 銀河の単位で見ればほんのちっぽけな時間かもしれないけれど、共に生きた。


 幸せだった――などと言うと、美化しているという誹りを免れないかもしれないが、敢えてこの表現を使いたい。


 それにこれは――美談などではない。


 彼らのこれまでが報われただけの、圧倒的な現実味を帯びた、夜空を煌めく星々よりも美しい、かけがえのない現実だった。




(「大気圏絶対防衛線」――了)

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大気圏絶対防衛線 小狸 @segen_gen

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