真紅の恋 

@yamato1126

序-1 騙された後宮勤め

八千八百八十八夜の海を越え

北へ北へと連なる陰の道

回廊を隔て紅蘭太子の島あり

紅蘭太子に罪ありて星の島へと流されなさった

紅蘭太子妖になりて星の宮に隠れなさり

ゆえに星の宮を紅の鬼宮あかのききゅうと人はいう


王宮の北の奥深く宮人が鬼の宮と呼ぶ宮があった。

その宮は呪われていると噂されていた。夜、宮に近づいたものを惑わす美しい竹笛の音が鳴り響きその音につられ宮へ立ち入った者は皆次の日の朝には首を吊って死んでいるそうだ。正しき名は星の宮であり、陰海を越えた北の果て、星の島へと繋がる回廊が開くと言われている。




高く聳え立つ羅宇仙山を後ろに、広大な平野が広がる自然豊かな苑花国。

その中心であり苑花国唯一の人物である、第十五代苑花国皇帝が所有する皇帝の妃が住まう華やかな後宮で、妃に仕え、華やかな生活を送っている侍女たちと……、


新米宮女、香花の生活は、それはそれは程遠かった。


「あーあ、給金早くもらえないかな」


衛生環境も悪く、給金も安く、食事も貧相な下っ端宮女の仕事、先輩宮女や宦官達の洗濯物を洗いながら、給金催促をぼやいた。

香花は今年から給金目当てで宮女に志願したのである。志願したというより、半分騙されたと言ってもいい。借金取りに追われていた途中、高給金宮女募集の張り紙を見つけ、喜び勇んで仕事についたはいいが、張り紙とは大違いの安い給金で重労働の仕事だったのだ。こんな手口を使うとは王宮もよほど人手不足なのだろう。ただ、給金はもうちょっとあげてほしい。なにしろ借金取りに追われているのだ。今月の分が返せなければ、家の中のものが全て、かっさらわれてしまう。それだけは回避したい。


「はあ……。給金……」


もう一度ぼやいたのが、先輩宮女に届いたらしい。ため息をついて呆れられてしまった。


「あのねえ、あんた。あんたみたいな新米宮女が、早く給料貰えると思ってるの?金、金言うその口閉じなさいよ。うるさいわよ」


辛辣な言葉で突き返された。


「ああ、そうそう。賢妃様の噂恐ろしいわよね」


香花は首をかしげた。自分は、後宮の噂話などとは、とんと縁がないのだ。興味がないというのもあるが。


「知らないの!?あなた!後宮の宮女全員知ってるわよ。賢妃様ご病気なの。でもねそれは皇后様の呪いって言われてるのよ。なんでって思うでしょ。賢妃様、皇后様より先に御子をご懐妊になって、正室の皇后様がそれを恨んでいるの。今、皇后宮は大荒れで大変らしいわよ。皇后宮の近くを通る時は気をつけなさいよ。話してるだけでも、侍女たちに目をつけられるわ」


長々と聞いてもいないのにありがたいことに忠告と理由までつけて、喋るだけ喋ると洗濯物を片付けに行ってしまった。


「いやな話を聞いたな。それにしても呪いねえ、そんなものないと思うけど。あっ!洗濯しなくちゃ!給金が逃げてく!」


洗濯の手が止まっていたことに気づいた香花は、慌てて真面目に仕事に戻った。


不憫なことに、先輩宮女の話で時間を取られた香花は今日の内に仕事は終わらず、残りの仕事を終わらせるために真夜中まで仕事場に一人残されたのだった。






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