第8話 男の娘物語 8 安岡



 居酒屋のトイレは男性用と女性用にわかれていた。

 男性用のトイレには、小便器と個室が背中合わせで一つずつ作られている。


 入り口すぐに手洗いの流しがあって、中は割と広かった。

 誰もいないトイレで、安岡が小便をしていると、入り口が開いた。

 その体つきで、一瞬女が間違って入ってきたかと焦ったが、顔を見ると耕平だった。


「なんだよ。女が間違ったかと思った」

 プルプルッと勢いよく振って飛沫を払うと、中にしまってチャックを閉める。


「ここ、いいぞ」

 安岡が場所を開けると、どうも、と言って耕平が入れ替わりに小便器の前に立った。


 すごく興味深いシーンだと横目で見ながら、安岡は手を洗った。

 あれ? あれ? と耕平はゴソゴソしている。


「なんだよ、酔っ払ってしまったのか? 探すの手伝おうか?」


「いや、大丈夫なんですけど、このジーンズぴっちりしてて股上浅いから出しにくいんですよね、どこだ?」

 チャックを下げたジーンズの中を右手で探っている。

 傾げた艶やかな白い首筋に、細い髪の毛の筋が幾筋かかかる。


 どれどれと、安岡は後ろに立って耕平の股間に手を伸ばす。

 てっきり嫌がって逃げると思ったのに。


 冗談さと言って笑うつもりだったのに、耕平は逃げなかった。

 うん、と首を反らして後ろの安岡を見上げる。


 切れ長の目が見つめる。

 まつげが長い。


 化粧もしていないのに、ほんのり赤みのさした色白の頬と赤いふっくらした唇は、これまで抱いてきた女に感じた色気や欲望を凌駕している。


 耕平の股間に入れていた右手に感触があった。

 ふにゃりとした感触。


 つまんで引っ張って、スルリとジーンズから出してやる。

 耕平が男だという証拠を、確かにつかんだ。


 湿った先端を軽く刺激してやると、耕平の唇が、あっと言って開いた。

 ぷっくりした赤いその唇に、思わず自分の唇を重ねた。吸い付けられた。


 すぐに耕平の舌が安岡を受け入れるように伸びてくる。

 頭の芯がカッと熱くなった。理性がなくなりそうだ。自分が自分でなくなりそうだ。まずい。


 誰か入ってきたら、困る。


 強烈な引力を振り切って軌道修正する様に、安岡は顔を離した。


「大丈夫、鍵は締めてますから」

 耕平に言われて扉を見ると、扉のロックが横向きになっていた。

 軌道修正するロケットの燃料は、その時カラになった。


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