第3話 収納《ストレージ》
電柱の檻に閉じ込められた俺。
目の前にはこの檻を作った張本人がいるが、どうにもこちらの話を聞く気があるとは思えない。
——黙って殴られたら解放されるかなぁ…
もうどうでもいいや。
所詮俺は6級の最弱能力者、この檻から逃げ出す手段すら持っていない。
気が済むまでボコられよう。
ああ、なんてツイてないんだ。
そんな俺の気持ちなど相手は知る筈もなく、遺憾無く能力を使って来る。
「そっちが来ないってんなら——こっちから行くまでよ!!」
見えないナニカに体が引っ張られる。
巨大な手で握られている様な圧迫感で、身動き一つ取れやしない。
勢いよく引き寄せられた俺の体は電柱と衝突し、激しい痛みが体中を襲った。
「かはっ…」
体内の酸素が一気に出て行く。
これが最強と言われる1等級の超能力。
流石に強力だ。
「何?もう降参?少しは抵抗してみなさいよ。つまらないわね。」
「はっ…俺は6級だぞ。1級相手に出来ることなんてある訳ないだろうが。」
痛みで頭が回らなかったせいか、ついつい本音が溢れてしまった。
6級という底辺能力者としてのコンプレックス。
それは俺が超能力を手にして以降、ずっと付き纏っていたもの。
——同い年くらいの女子に弱音を吐くなんて情けねえなぁ。まあでもいっか。どうせもう会うこともない奴だし。
1級と6級では住む世界が違う。
ひとしきりボコって気も済んだ事だろう。
そろそろ家に返して欲しいな、なんて思っていたら——
「……何それ…ムカつく…」
………聞き間違いか?
思いもよらない言葉が俺の耳に飛び込んで来る。
「えっと……今なんと?」
「ムカつくって言ってんのよ。」
これで二度目、どうやら聞き間違いではなかったらしい。
それにしてもムカつくとは…ボコられた側の俺が言うのなら分かるけども、人をボコった側が何にムカついているというのだ。
「えっと…俺、何かしましたっけ?」
「その態度、発言、全てがムカつくわ。6級だからか知らないけど常に下手に出て戦う前から負けるって決めつけてる。ばっかじゃないの!やってみなきゃわかんないでしょ!」
——やってみなきゃ分からない…それが言えるのは才能があるからだろ。
今まで言われっぱなしでいた俺だが、何故か女子高生のこの言葉にカチンと来た。
それは多分、手術を受ける前の何も知らない楽観的な自分とこの女子高生が重なって見えたからかも知れない。
「やる前から結果がわかる事もあるんだよ。いいか、俺の能力は物を出し入れするだけの能力だ。5種類しか入れれないという制限もある上、入れた物の重さはそのまま俺が負担する羽目になる。バッグで十分な欠陥能力なんだよ!これでどうやってお前の能力に勝てるのか、是非とも教えて欲しいもんだね。」
言ってやった。
思っていたことを、全て。
何かしらの勝てる手段を言えるのであれば女子高生の勝ちだが、それはない。
どう考えても勝負にすらならない、それだけの違いが6級と1級にはある。
そう、思っていた。
女子高生は俺の言葉を受け取り考える素振りを見せること5分、ようやく答えを出したのか3本の指を立てた。
「1つ目。体を鍛えなさい。重さを受け止められる強靭な肉体があれば使える武器が増えるわ。2つ目。何もその能力、手元からしか出せない訳じゃないんでしょう?相手の頭上に出して自由落下で攻撃するとか、そういった工夫を考えなさい。最後に3つ目。収納する物の組み合わせを考えなさい。例えばガスバーナーとライターを携帯するだけで火炎放射器が出来るし、ナイフ一本でも急に出て来るだけでかなりの脅威よ。」
「まあ私には意味ないけど」と余計な一言を添える彼女だったが、俺はそんな女子高生を唖然とした表情で見ていた。
たった5分。
たった5分という短い時間でこの女子高生は俺に可能性を3つも示した。
「私は自分の能力を磨き続けて6級から1級まで上り詰めた。だから自分に才能がないとか言って諦める人間が大っ嫌いなの。廃れてる暇があるなら鍛錬でもしたらいいのよ。」
返す言葉もない。
俺には足りなかったのだろう。
上に登ろうとする努力もせず、自分の能力と向き合う事もしなかった。
その結果が今の俺だ。
「2週間後、北7区の超能力計測場で待ってるわ。今日の続きをしましょう。」
それだけ告げると女子高生は立ち去ろうとした……が、忘れてはいけない。
「お、おい!この電柱をどうにかしてから行け!」
「はあ?そんなの自分でどうにかしなさいよ!そうだ!
——
「こんな重たいもん……入る訳ねえだろーが!!」
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