科学と異能は工夫次第

杉ノ楓

第1話 荷物持ち

 ——どうしてこうなった…



 目の前には怒り狂った表情で今にもとしている女子高生が1人。

 勿論、電柱の矛先は俺。

 いやまあ確かにちょっと水をかけちゃいましたけども、そこまで怒る事ですか?



 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 俺こと桐崎真太郎きりさきしんたろうは落ちこぼれだ。


 昔は奇跡や魔法だなんて呼ばれていた力が、科学技術の発展により解明された現代では誰もが超能力を身に付ける事が出来る。

 そんな時代に生まれた俺も当然の様に超能力者である訳だが…こんな時代でもたった一つだけ不便な事があった。

 それは、得られる超能力は“選べない”というところだ。


 要は手術で超能力という力は与えれるけど、どんな超能力かは本人次第という事。

 最初にこれを聞いた時は解明したってのはなんだったんだ、と文句を言ってやりたい気分にもなったが、まあ元々ない能力だし当たりを引けばいっかと甘く考えた結果、得た能力が『収納ストレージ』。

 対象の物を出し入れする能力だが入る限度が5種類だけと少な過ぎる上に、収納した分の重さは体にのしかかってくる。

 ちょっと大きめのバッグを持ち歩けばこと足りてしまう、正真正銘のハズレ能力を見事に引き当ててしまった俺は“荷物持ち”と馬鹿にされ続けて今まで生きて来た。



「おーい、桐崎ー。これもお願ーい。」


「はいはい、今行きますよっと。」


「桐崎ー、こっちもー。」


「はいよー。ちょっと待っててねー。」


「きーりさーきくーん。こっちもお願ーい。」


「へいへーい。少しお待ちを。」



 今日も今日とてクラスの女子の買い物に付き合わされる日々。

 勿論、荷物持ちとしてだが俺的に役得ではあるのでこの扱いを甘んじて受け入れていた。

 こんなのはまだマシな方。

 小学生の時なんかはクラス中のランドセルを持たされて下校したくらいだ。

 収納ストレージには5種しか入らないってのを分かっていながらそんな事を強制してきたあいつらのは立派なイジメ、対してクラスメイト(女子)との買い物はどうだ?

 男として見られているかはともかく、ちょっとしたハーレム気分を味わう事が出来る。

 人によっちゃ最高のイベントだろ?

 まあ、流石に毎日は疲れるけど…


 そんなこんなで買い物が終わり、買い物袋を両手に待ったまま各々の家まで女子と荷物たちを送り届ける。



「はぁ…今日も疲れたぁ…」



 ようやく解放された時には時刻は20:40分。

 日はすっかり落ちて街は暗さを増していた。

 疲れを癒すため自販機で水を買って喉を潤すしたら収納ストレージに放り投げる。

 こういう時は便利だよな、なんて思いながら歩いていたせいか、気を抜いてしまった。


 収納ストレージは解放した時に空間に“歪み”みたいなものができ、その中に入れる事で収納完了となるのだが、俺の投げた水は見事に歪みの横を通り過ぎて背後を歩いていた女子高生に当たってしまったのだ。


 ——やべっ!


 急いで振り返るとそこには見事に制服が濡れている女子高生が1人。

 彼女の足元には蓋の開いた空のペットボトルが転がっていた。


「あっ、悪い。その……わざとじゃないんだ。」


「わざとじゃない?へぇ、わざとじゃないのにペットボトルを背後に投げる人なんているのかしら?あいにくと私はそんな人、1人も知らないのよねぇ。」



 顔は下を向いているから表情は読み取れない…が、確実に怒っている。

 なんで分かるのかって?

 女子高生がミシミシと音が聞こえるくらい拳を握りしめているからだ。



 ——なんかよく分からんが…こいつはマズい。



 直感でそう感じ取った俺は、なんとか彼女を静めようと考えた。



「お、落ち着け。水を投げたのには訳があるんだ。とりあえず話を聞いてくれ。謝るしちゃんと弁償するから、な?」


「少し身の危険を感じたらすぐに言い訳?喧嘩を売るなら覚悟してから来なさいよ。じゃないと……痛い目見るわよ!!」



 こうして話は冒頭に戻る。

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