ヴォン・ヴォイドと妖精102号
佐田ほとと
妖精102号の介入
魔力測定器を全部割ったという神童も今ではすっかり舐められている。
静かに生きたいと嘯いているがはたから見れば怠け者だ。
彼の名前はヴォン・ヴォイド。パッとしない風体のなかに偉大な力が隠されている……のだろうか。
ほら今にもパーティから置いてかれそうだ。
◆◇◆◇◆
ヴォン・ヴォイドは頭を槍の柄でこつこつと叩かれる。
「おい間抜けのヴォン・ヴォイド」
横たわる彼を三人が見下ろす。しゃがみ込み、ヴォイドの頭を叩いている男の名はマードック。その後ろに女二人が立っている。腰に手を当て、勝ち気な瞳で見下ろすのがマリ。杖を胸に抱いているのがアンジェ。
「感謝ぐらいしたらどうだ」マードックが依然頭や背中を叩き続ける。マードックの体はヴォイドの二倍はありそうだ。
「ねえ、死んでないよね」マリが言う。マードックの馬鹿でかい背中を避けるようにまわりこむ。
「息はある」
「治療はしましたし……」アンジェが言う。杖をぎゅっと握りこむ。
「寝てやがんだ」マードックは叩く手を止める。「とんでもない奴を掴まされた」
「すごい人かと思ったのに」マリが見下した目でヴォイドを見る。
「まいったな」マードックが剃り上げた頭を撫で、立ち上がる。
「どうするんですか」アンジェがヴォイドを指差す。
「腹減ったら起きんだろ。起きるまで世話してられっか」
「そうよ。こいつなんて、罠にかかって、寝てただけ。自分の足でついてくることもできない。収入ゼロ。まったく」マリがため息をつく。
「うーん……」
「次だ次」そう言いながらマードックは歩き出している。
「ほら、行こう?」マリがアンジェに言う。「ここは安全だよ。そいつ置いておいても……」
アンジェはヴォイドをちらりと見た後、マリの背を追う。
三人の姿が見えなくなっても、ヴォイドは目覚めない。穏やかで、視界の開けた丘の上で日が傾き、夕闇が訪れても、眠ったままだ。
そこに一つの偉大な光が近づく。幻想的な光の球が、威厳ある蛇行で、眠りこけるヴォイドのもとへ。
「おい」とその光はヴォイドに目覚めの時を告げる。
起きない。
「ヴォン・ヴォイド」落ち着いて繰り返す。
まだ起きない。
「このあほんだら野郎」
いまだに起きない。
「やい、起きやがれ! スカした無能チビ野郎!」
「あ……?」ようやくヴォン・ヴォイドは目を開けた。「眩しっ」
「やっと起きたか」光はヴォイドの顔の周りを舞う。
「いったいナニゴト?」ヴォイドは間延びした声を出し、右手で顔を覆う。
「お前、ドジふんだな」
「ドジ……? えっと、パーティメンバーは?」
「置いてかれたよ。お前が罠踏んで、逃げなきゃいけなくなって、治療してもらって、運んでもらって、安全なところに横たえてもらう間、すやすやと寝てたからな」
「覚えてないな」
「お前がもうちょっとましな奴ならあいつらと仲良くやれてたろうにな。間抜けなチビ野郎じゃ無理か」
「チビだと?」ヴォイドが体を起こしかけるが、「あ、いたた……」と言って再び横になり、そして今度はゆっくりと上体を起こす。
「あれ、俺は何と話してるんだ?」
「オレだよ。この光が目に入んねえのか」光がヴォイドの瞳に近づく。
「びぇっ」と叫んでヴォイドは瞼を下ろす。
「なんだよお前!」と両目を抑えたままヴォイドが言う。
「オレは妖精だ」
「妖精?」
「妖精102号。お前の───ヴォン・ヴォイドの伝記の著者だ」
「伝記って、偉人とかがこんなに凄いことしました、とか書かれる、あの?」ヴォイドは瞼を上げる。
「そうだ」
「俺がなんか凄いことしたの」
「してない」
「じゃあ俺は凄いことしなくても偉人ってことか」
「そんな奴はいない」
「だったら何だよ。もう書いたんだろ。大体妖精って何だよ」
「書いてない。書く予定だ。オレたち妖精は人間の担当について、そいつの伝記を書かなきゃいけないんだ。お前みたいなアンポンタンに力をくれてやって、こんな凄いことしました、って書くんだよ」
「俺の担当が、お前?」
「オレだ」
「力をくれるのか」
「もうやったよ。お前が生まれたときに全部やった。神童だったろ。真面目にやってれば、今頃ひとかどの人物として名が轟いてたのにな」
「嫌味を言うために来たのか?」
「我慢しきれなくなった。著者が作品に出てくるのは、できるなら避けたかった。メタいのは好みじゃない。ありのままが一番なんだ。でもいい加減退屈なんだよ」
「お前、何言ってんだ?」
「オレがお前を導いてやるって言ってんだよ。オレみたいな妖精が他の奴にも口出ししてんだ。そのうちとんでもないことが起こる。路線変更して、そいつらを懲らしめる側にまわんだよ!」
次の更新予定
2024年9月28日 12:00
ヴォン・ヴォイドと妖精102号 佐田ほとと @sadahototo
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